†本編†

□一話
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閉めきったカーテンから日は一切入ってこない…。

会川はゲームの電源を切りニュース番組をかけると買いたてのソファーに座った。テレビからは茶髪の名も知らないアナウンサーが話をする。

「今日は今話題の携帯ゲーム会社を特集します。」

今話題といえば…会川の顔がひきつる。自分とは違く優秀な肉親の顔を浮かべると吐き気がしてくる。

「まず登録者一千万人を突破した会社十字目を紹介…」

十字目という言葉を聞いた瞬間に会川はリモコンに手を伸ばしテレビの電源を消した。聞きたくもない言葉だ。できればこの世から消し去りたい。

ピンポーン。

インターホンの音が聞こえると会川はしぶしぶ立ち上がる。此処に来る人は一人しかいない。

戸惑いながらもドアを開ける。

「また来たのか。」
「……。」

来客者を部屋に招き入れると躊躇なくソファーに座る。それは悔しいほど恵まれた才能をした俺だ…。

「こんなボロアパートによくいれるな。」

そいつは無表情でそう言った。
同じ顔をした十字目の設立者壊は。


「会川…ご飯食べてるか?」
「うん…。」
「足りなかったら言ってくれ。」
「うん…。」
「それと…」

この後の台詞は毎回聞いていてさすがにムカついた。

「わかってる!!十字目に来ないかだろう。前も言ったけど働く気ねぇから。」

これこそ腐ってるって言うんだろうか。社会のゴミだって。けどもう考えたくもない事だ。何も。
「会川…また来る。」
「来なくていいし。」

冷たい会川の態度に少し悲しい顔をする壊に会川は罪悪感を感じる。

いつも壊は俺にしか見せないトコが多い。本当は人とのコミュニケーションが苦手なタイプだ。なのに今では人との関わりのある仕事で成果をだしてる。

それに比べて俺は昔から友達がたくさんいて人と関わるのが好きだった。でも今では顔も見えない人間との関わりに生きてる。これは何なんだろう…。

沈黙に耐えられなくなったように立った壊の足を掴む。

「また来いよ。」

よくわからないがそう口にしていた。また昔のように壊を憎んだりしない自分に会いたいのだろうか。


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