†本編†
□二話
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*栗鼠*
十字目に入社してからは貰える給料がぐんと上がった。
十字目に働く前にはパソコンとは程遠い仕事で稼いでいた。
昔からの夢だったシェフという仕事。
調理師免許を二年制の学費も普通より全然安い調理の専門学校で取って、二十二歳くらいではもう新米として料理を勉強し始めた。
けど…昔の事故で俺はダメダメだった。
右手が震えて、上手く包丁を握れない。慎重な作業に向いてない手だった。
けど専門学校の先生は全然問題ないと言ってた。今思えばただ俺を辞めさせたくなかったんだろう。いつも慰めてくれたから頑張れてたのに。あの時の俺は
無我夢中だったから。
けどシェフの世界でそれが通用するワケもなく、どこも雇ってくれなくなった。
そんなときに十字目の社員面接に一か八か行ってみた。金が稼げるなら何でもやるつもりだったから。
で、今の俺がいる。
パソコンを猛勉強してゲームも作れるようにまでなった。これで違う道に行ってたら俺はこんな良いマンションに住んでいられない。
栗鼠はそんな事を思い出しながら自分の部屋に向かうためにエレベーターに乗った。
栗鼠の部屋は8階で一番最上階にある。
そういえば…コンビニで帽子を深くかぶったいかにもな男が俺を見て走って行ったような…。
まあ財布忘れたとかかな。
チーン。
エレベーターの扉が開き栗鼠は一歩一歩昔の思い出を巡りながら部屋へ向かった。
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