書籍
□秋冬は嫌いでさ。
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最近、寒い。
隊服の中に着込まないと見廻りなんてやってけない。
「総悟ォォ!どこでサボっていやがるっ!」
そんな寒さに負けず刀を振り回しながら叫ぶ鬼の副長。
どうやら隊長がサボっているらしい。
「山崎ィィ!」
振り回していた刀を俺に向ける。
「ひ、ひぃぃ!な、何ですか!?」
「今すぐ総悟を探してこい!じゃないと切腹だ!」
もう瞳孔は完全に開いてる。今何を言っても無駄だな…
「は、はいぃぃ!」
彼なりに心配をしているのだろうけど…
限度が過ぎるて俺に当たるのは辞めてほしい。
屯所中どこを探しても隊長はいなかった。
「どこいったんだ…?」
何か手がかりはないかと隊長の部屋を探索してみた。
「ん…?」
筆を使った後と、机の横を見ると何か書かれた紙があった。
「[森に行ってきます]?」
置き手紙を置いていくなんて今まであったっけ?
とりあえずサボりではないらしい。
居場所もわかったし行ってみよ…
――森にて――
「って言っても結構広いんだよなぁ…ここ…」
溜め息を着きながら森の中を歩く。
すると、泣き声が聞こえてきた。
「隊長なわけないか…」
しばらくすると喋り声が聞こえてきた。
「サド丸22号…何で死んだんでさァ…ヒック…」
サド丸22号?
確かそんなカブトムシ(?)を隊長が飼ってたような…
覗くと、大きな虫の前に小さくしゃがみこんでいる隊長がいた。
「隊長…!探しましたよ…」
名を呼ばれた隊長はこちらを向いた。
その赤い瞳は涙で濡れていた。
「や、山崎!」
隊長は目を擦るといつものような素振りを見せる。
「森で散歩ですかィ?趣味が悪いでさァ。」
「…そのカブトムシ、死んだんですか?」
「…最近の寒さで死んじまったんでさァ。…だから秋冬は嫌いなんでィ…」
そう言うとまた頬に涙が伝う。
まだ隊長も子供だな。
そりゃそうか。二十歳もこえてないし。
隊長は周りの奴らに合わせようとしていつも背伸びしていたのかな。
「泣くの我慢しなくていいですよ。なんなら甘えてもいいですよ。」
俺は腕を広げる。
だったら今くらい俺が姿勢を低くしてあげよう。
「ばっ、泣いてなんかねぇ!つーか、誰が甘えるか!」
一生懸命涙を拭っているが止まらないらしい。
「俺以外誰もいないからばれませんよ?」
隊長は周りを見渡すと誰もいないことを確認すると、うつむいたまま腕の中に飛び込んできた。
「サド丸22号グズッ…」
俺がいなかったらずっとここで一人で泣いてたのかな。
捜してよかった。
俺は隊長の頭を撫でながら思うのだった。