君に送るは、エンゼル・ランプ
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とある国の、とある街。
とある街角のとある豪邸の廊下の南端に木製のドアがある。
古く色はくすみ、所々が朽ちている。
そしてそれを取り囲むようにいくつもの鎖が太い杭で打ち付けられており、大きな頑丈そうな南京錠もついている――そんな木製のドアがある。
まるで、その奥に何かを閉じ込めているかのようなそれは異質な雰囲気を醸し出していた。
時折聞こえる息遣いやきぬ擦れの音に、たまたま居合わせた人は何かがいると恐れ慄いた。
昔この建物に住んでいた下級貴族の娘が行方不明になり、いつの間にか家族も蒸発してしまったという実話もあいなって、今ではここはこの街では有名な幽霊屋敷となっている。
「また、出たそうね?」
真っ暗闇の中で、鈴のような澄んだソプラノの声が静かに響いた。
あどけなさが残る声からして、まだ10代後半の女だろうと推測できる。
「これで15件目だそうだ。どうする?」
その声に低いテノールが答えた。
こちらは20代前後だと思われる。
青年、という言葉が合うような、そんな声だ。
「…でもなんで急に?今までなかったことなのにねぇ。」
次に少し高めのアルトの声がした。
最初の女と同年代だと思われる声だ。
少しだけ間延びした話し方をする男のようだ。
「…目覚めたようね。」
「ヤツが?まさか。だってお前が直々に封印しただろう?」
「だからよ。ここずっと疼くのよ、ヤツにやられた傷が。」
ぴちゃん、と真っ暗闇の中で音がした。
それは一定のリズムを刻んでいてまるで、水が滴り落ちているような音だ。
「またひらいたの?」
アルト声に焦りが含まれ、バタバタと走るような音が部屋に響いた。
そしてかちっという音に少しだけ遅れて、明かりが灯った。
どうやら男が部屋の電気をつけたようだ。
光に照らされたのは、紅く染まる女の腹部。
じわりじわりと滲む紅は紛れもなく彼女の血だろう。
しかし女は平然と椅子に座り、口元には笑みを浮かべたままだった。
「もう少し情報を集めて。それから作戦を練りましょう。」
目を閉じたままの女は、そばで手当をしている男と自らの後ろに立つ男に言った。
男たちは了解とだけ言い、一人はすぐに部屋を出ていき、もう一人は手当を終えてから部屋を出ていった。
残された女は、新しく巻かれた腹の包帯をそっと撫でる。
「…あなたがどこにいようとも私の目はあなたを見つけるわ。」
ゆっくりと開かれたその双眸は、綺麗なエメラルドブルーをしていた。