君に送るは、エンゼル・ランプ

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自分が責任を持っている教会は、街のはずれの森の中ある。
昼間でも余り日が指さないので、黒森と呼ばれている森にあるせいか教会も黒教会という愛称で親しまれている。

黒とは余りいいイメージを持たないが、自分的には好きな愛称だ。
黒は何にも染まらない、ただ一つの色だから。

古くなった教会のドアを開けると、蝶番が悲鳴をあげた。
そろそろ改装しなければいけないのだが、如何せん相談料やらなんやらをあまり取らないせいでお金がない。
本部からの給料などたかが知れている。

相談料をあまり取らない自分はユグゼルク以外使い道がないと本部は見ているようで、万年平神父街道まっしぐらなわけである。

本当なら、全部を改装してもっと神が来てくださりやすいところにしたいのだが、それももっとあとになりそうだ。


「勝手にお邪魔してしまってすみません、神父様。」

礼拝堂のボロボロになった長椅子に女性が一人座っていた。
声は自分に向けたものであるのは間違えないと思うのだが、女性はこちらを向かなかった。
まっすぐ礼拝堂の前の神の象徴である隻翼龍の像を見つめている。

「どうされましたか?こんな夜遅くに。」

着ていたコートを脱ぎながら、女性に尋ねる。
ちらりと時計を確認したが、もう午前1時近くだ。
こんな遅い時間に女性だけで一体どうしたのだろうか。

像の近くにあるロウソクに火を灯し、女性を見る。
瞬間、言葉を失った。

「あなたは…」

黒い布で目元を覆っている彼女から目が離せなかった。
ゆるゆるとこちらを見た女性はにこりと笑い、ぺこりと頭を下げた。

「気になりますか?これが。」

すっと彼女は目元の布に触れる。

「いえ…失礼しました。気分を害されましたか?」

「いいえ、大丈夫ですわ。」

「…それで、何かご用でしたか?待たせてしまって申し訳ない。少しお待ちください、コーヒーを入れて参ります。」

そう言えば、彼女はありがとうと笑った。
とても綺麗な笑顔の女性だと思った。
きっとあの布の下の瞳は笑顔と同じで綺麗だったのだろう。
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