あやし事務所

□バラバラの五人〈いつつ〉の思い
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そこは暗い場所だった。
鼻につく臭気が立ち込めている。赤と黒が乱雑に入り交じっている。それ以外の色は書き消されてしまっている。
「また、やったの」
「あら?来たんだ」
その場で王のごとく女が微笑んだ。長方形の何かに座っていた。
「アンタが来るように言ったんだろうが」
声は面倒臭げでそして、つまらなそうだった。くすくすと女の笑い声が響く。
「そうだったわね」
優しげにさえも見える微笑み。それに苦虫を噛み潰す。嫌いだ、何て声には出さないけれど、顔に雰囲気に滲み出ている事だろう。自分はひーのように全てを笑みで嘘で塗りつぶすことはできない。その事を彼女は知っている。
女を見た。
優しげな眼差しで汚れきた周りを眺める女を。
「何のようなんだよ」
「用はないわよ」
女の声が告げる。
「嘘つけ」
答える声は固かった。
「嘘じゃないわよ」
「嘘だよ」
「何で?」
「用もないのにアンタは俺らを呼ばない」
ふっふと笑う女から極力目をそらす。
「その通りよ」
「何のようだよ」
「見つかったの」
「はぁ?」
突端に変化した女の声に声を上げる。
女は子供のような顔をしていた。おもちゃを見つけた子供の顔。
「何を」
「杜の鏡と月の瓶」
ピックりと肩があがった。
「どこで」
「葉水学園高等部図書室」
「で、」
女が笑うのが気配でわかる。女を見ることがどうしても出来ない
「お願いね」
囁いた女。
みなまで言わないのは、それこそが、強制力。もう、変わらない。
嫌に胸が高鳴った。
嫌な予感がする。
くすくすと女の笑い声がやけに耳に残る。
話題を変えたくて見るのも嫌な室内に目をおとした。赤と黒が気持ち悪い。ゴロゴロと踏む場のないほど転がるそれは、もう床と一体化していて避けるのも面倒臭い。
そう言えばまだ一番初めの質問に答えてもらっていない。
まあ、どうせ答えなど聞くまでもないし、聞きたくもないけど、それでも今よりはましか。
「なあ」
「何、」
女の赤い口が言葉を紡ぐ。
「またやったのか」
「来たときにも聞いたわね」
「良いだろ」
「ええ」
女の白いはだが目に焼き付く。
「で、やったの」
「やったわよ」
わかっていた答えに、それでも言葉を飲みこんだ彼女に、女が笑う。
「仕方無いでしょ。みんな、失敗なんだから」
ゾッとしたそれに女は静かに微笑んでいた。
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