あやし事務所

□化け物と呼ばれし雫
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「お姉ちゃん!」
声がした。明るい笑顔がそこにはある。
「なあに?」
柔らかな微笑みが落ちてさらに明るいものへとなる。そして、誇らしげな笑顔が零れる
「向こうに綺麗な川があったんだ。お魚も釣れるし、洗濯もできるよ!! それに果物が咲いてたし薬草も生えてたから食べ物も手に入るんだ」
「それは凄いわ! 一緒にいく?」
「うん!」
誇らしげに笑っていたのがその言葉を聞くと大輪の花が咲いたかのようにさらに明るくなった。二人の回りには花が咲いていた。




「そう・・・ですか」
淡い笑みを浮かべた。
何度もごめんなさいが聞こえてきてさらに笑う。
「いえ。仕方ありませんもの」
ほっと吐かれる吐息が聞こえて、去っていく音がして、淡い笑みは悲しみに変わる。
「仕方ないんですのよ」




「おはよう!」
「おはよう」
ニッコリと微笑んだ二人。
「早く、軍に行きましょ。鬼教官に怒られてしまうわ」
「そうね。今日は特に張り切っていて怖いらしいしね」
「ああ、魔女狩りだからでしょ。あの教官魔女狩りに異様なほど執着してるからね」
「しかも連れていく兵士の半分は女。何がしたいのかしら」
「見たくないわよね。正直な話」
「ええ。と言うか何で私が兵士なのかさえも気になるけど。看護婦だった筈なんだけど」
「私もよ。いくら兵士の数が足りないからって女子供にまで武器を持たせるなって思うんだけどね」
「そうよね。それに魔女狩りだって馬鹿らしいと思うわ。労働力が少ないのをさらに減らさなくていいと思うの? お偉方が何を考えているのか全く分かりませんわ? ・・・でもこんな事言っていたら捕まっちゃうかしら? 早く行こう」
「そうね」




パチパチと音が響いた。それはリズムを刻んでいる。
「皆さん。良いですよ」
柔らかな声が落ちた。
「はい!せんせ」
可愛らしく元気な声が答える。他にも聞こえていた。声の一人が無邪気に笑う。
「せんせ!好き〜」
「私もみんなが大好き」
 柔らかな笑顔があった。




 笑顔が溢れた
 芳しい花の匂いが鼻孔を擽る
「はい。どうぞ」
「ありがとう!お姉ちゃん」
「どういたしまして」
 笑う頭の上、シロツメクサの花冠が揺れていた




ため息が落ちた。甘い匂いがする
「退屈・・・」
声が落ちた。空は青いのに




「え?」
酷く悲しげにその目が歪んだ。
「何で?どうして?」
答えてくれるはずの声はしなくて
「何処に行っちゃったの」
隣にはぽっかりと穴が空いている




その目が驚きに見開かれた。両手に枷られた木の感触が冷たい。両足にもされて歩けなくなる。それでも連れていかれる
「あの・・・これは?」
「しらばくれるつもりかこの悪魔が!?」
「悪魔?なんの事でしょうか?」
「分からないと言うつもりか!!お前が魔女だと言う証拠はあがっているんだ」
詰る言葉に血の気が引いた。




ざわざわと声が響いた。ざわざわと。
見つめてくる目が冷たい。
「みんな?」
冷や汗が流れ落ちた。




悲鳴が聞こえた。
赤い炎の世界。
悲鳴が聞こえた。
赤い血の世界。体を貫く無数の刃
悲鳴が聞こえた。
赤い刻印の世界。
押し付けられ焼けただれる肌
悲鳴が聞こえた。
「イヤアアアアアアア!!」




「嘘つき!」
「近寄んな!!」
「化け物が!!」
「死ねよ!!」
痛かった。頭が胸が手足が。
投げつけられる無数の石粒。痛かった
「消えろ!」
涙が消えていた




「何でですか」
声が心が震えていた
自分を見つめる刃物の瞳。
「嫌いだったからよ」
どんな刃よりそれは鋭く切れた。




カンカンカン!!
赤い炎の世界でその音は響いた。
甲高い鉄を叩く音。
その音は響いた。
「いつか・・・いつか・・・いつか」
高い音が響く。
熱い熱い世界。
「いつか・・・。」
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