あやし事務所

□化け物へ捧げる雫
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「おかえり」
「やあ、おかえりなさい」
蓮が自分の家に帰りついた時、聞こえてきたのは予想だにしない声だった。幼い子供の声に成人した男の声。子供の声は誰のものか考えるまでもなく分かる。それは予想していたものだ。藤蘭優奈と言う蓮の家に居候している少女の声だ。ただもう1つの男の声を蓮は予想していなかった。聞き覚えはあった。だがこんなところ、自分の家で聞くことになるとは一欠片も一滴も思っていなかった。
その声の持ち主の名は真田臨也。老若男女問わないナンパ男で出会った瞬間に蓮をナンパしたこともある。だが軽薄そうに見えるその行動とは裏腹に臨也は頼りになる男だった。何回か彼に助けられたことがある。彼はその行動理由を語らないが、誰かを助ける為に何度か行動を起こしていた。それは蓮のように自ら戦う事でではなく、誰かに戦う力を与えたりとそんな方法で。
臨也は戦ってきていた。
そして今回の件にも何かしらの形で関係していることは明らかだった。
そんな臨也を睨み付ける。
何か大事なようがあるのかもしれないとは思い浮かべたが今はそれどころではない。何せ色々と助けられたことはあるとしても、注意すべき大変態が勝手に家に侵入しているのだから。
否、蓮があげてないだけで、優奈があげた可能性もなきにしもあらずなのだが、それは・・・・・・
「ねぇ、この不法侵入者半殺しにしていい?」
そんな物騒な優奈の一言でたち消えた。蓮の目がさらに鋭いものに変わり思わず頷くかのように見えた。
直ぐに理性の方が持ったが。
「だめ。この家が殺人現場になると大変だからね」
「僕の心配はないのかい?」
信じられないとばかりの反応をみせる臨也を蓮は気にしない。靴を脱いで、優奈の手を取って廊下を進んだ。向かうのはリビングであり、その扉を開けた瞬間高速で動いている。バタンと臨也が侵入してこようとする前にとをしめ、声が聞こえてくる前に鍵をかける。その一連の行動を見ていた優奈はあまりの早業に拍手を送っている。
一言言おう。
見えなかった。
蓮の行動はあまりにも早くスムーズで目視することは叶わず、すべてが起きた後数秒後に初めて理解できたのだ。
扉の向こう側の存在もそうなのだろう。やや遅れて扉を叩く音が聞こえだ。
 それを蓮は華麗に無視する。キッチンへと向かい冷蔵庫を覗き込む。
「今日は何食べたい」
「何でも言い」
「了解」
 客人の存在を無視しいつも通りの日常が広がっている。これはもう臨也のことは終わったなと肌で感じ取った優菜は席へ着いた。ドンドンと戸を叩く音が聞こえるが、それよりもキッチンから聞こえるトントンと耳に優しい音の方が優奈には大事だ。早くこの音がやむといい。でも、やまないでもほしい。
相反する想い。
自分の気持ちがよく分からない。
分かっているのはこの音が止めば、本題に入ると言うこと。間違いなく蓮は聞いてくるだろう。五人ではない五人組のこと。少女のこと。それに答えることができるほど優奈は知らない。知っているのは・・・。
蓮が追い出した変態だろう。
最終的にはあげられるであろう彼が多分この中で一番事情に近い。
だって・・・・・・。
ため息をついた。自分のせいと言う言葉が巡るのに蓋をする。脳裏に浮かんだ幽霊の姿。優奈の企みにより命を落とした少女。そして、もう一人・・・・・・。
ため息がこぼれそうになるのを必死に留める。そして無理矢理笑顔を作ってみた。
 まだやっていける。
 キッチンを見る。
 おいしそうな匂いが漂いだしたそれは時が近いことを教えた。
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