あやし事務所

□全てよ終わって消えていけ。裏切りと共に
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 その声は子供の者だった。
 紅い鞠が輝いている。
 紅い着物がはためいている。子供は一歩、女に近付いた。
 女を取り囲んでいた一面に見えるように前にでている。
 子供はいつもと変わらぬ無邪気な笑みを浮かべて笑っていた。
「止めちゃいな。理矢お姉ちゃんも清水おじさんも蓮お兄ちゃんも雪姫お姉ちゃんも。
みんなみんな止めちゃいな。この風の中跪くと良い。それは永遠の降伏を表しあたしが警告を出したことは絶対にやれなくなる。だから跪いて。そしたら、私達の敵ではなくしてあげる」
 そう語る子供は時たま現れては好きなようにしていたお沙江という子供だった。
 彼女は無邪気に笑っているけれど、やっていることは無邪気ですませられることではなかった。それを分かっているのだろうお沙江はそれでもやはり笑ってすませていた。
「フッフ。妾が力を使うまでもないか。まあ、そうじゃろうて」
「当たり前だよ。だってあたしは強いもん」
 笑い会う彼女たちには風は吹いていなかった。もう一人雪姫にも。
『この風は何』
 風で他が喋れない中、雪姫だけは冷静に文字を打ち込んでいた。
「風だよ。あたしの意志のままに操れる風。この風の中で跪くとどうなるかは先言ったとおり。ただ一つ良い抜かったことがあるとしたらこの風は妖怪には効かないんだ。と言うより、効かないようにしたんだ。だってそうしないと仲間まで巻き込んじゃうでしょ」
 お沙江は綺麗に笑っていた
『裏切ったの。此処の人たちよ。騙してたの』
「うーん。ちょっと違うかな?確かに私は裏切るけど裏切ったけど騙してはいなかったよ。みんな好きだったよ。楽しかったよ。多分きっと。でもね、あたしにはそれ以上に大事な者があって、守らなくちゃいけない者があってだから裏切るけど。でも、騙してはなかった。大事だったと思ってたし、仲間だとも思ってた。だから裏切りはするけど、騙してはなかった。それに、あたしがここからこうして裏切ることを決めたのはちょっと前のことなんだよ。本当はこのままみんなと一緒にあやし事務所で戦って、あやし事務所が滅びるのを見るつもりだったんだけど、そうしたかったんだけど。でも、そうするのはあの子を傷つけることだって思ったから急遽変更したの。そうじゃなかったらずっと此処にいたよ。此処が終わるひまで
でも、仕方ないよ。理矢お姉ちゃんは好きだけど、でももっと大事な者が壊れていこうとしてるから私はそれを守らなくちゃいけない。それが出来るのはあたし達だけ。だから、あたし達が守らないと。騙してはいなかったけど、それ以上に大事な者があるの。しょうがないよ。それを傷つけるのは此処なんだから。あやし事務所さえ無くなれば傷つかない。
だから仕方ないんだよ。
だからあたし達の為に跪いて」
 お沙江は無邪気の中で大人びた面を見せていた。それは今まで一度もなかった者で、彼女の本気を教えていた。
 彼女は止まるつもりはない。
 そんな事分かっても彼らにはどうすることも出来ないのだが、突風が襲っている。その中であやし事務所の面々は必死に耐えていた。それを見てお沙江は静かな表情をしていた。
「跪いてくれないの。傷つけるの。なら、容赦はしないよ。あたしは。あのことあたし達は表裏一体、あの子を傷つける者を決して許しはしない。これ以上、あの子を押しつぶされてなる者か」
 じっとお沙江は見つめていた。跪くその瞬間をお沙江は待っていた。
 だけど誰も跪こうとはしない
「誰が跪くしゃいかよ。人の夢をしってんでしょうが」
睨む視線の刃がお沙江を貫く
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