あやし事務所

□五人ではない五人
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 帰り道。今、蓮は一人だ。つい先しつこく付いてくる少女をふるい落とすことに成功した。会話をする為に取り敢えずは少量にしていた音量を今はもう上げようとしている。そんな時だった。
「こんにちは。久しぶりかな」
 そんな声が聞こえてきたのは。一瞬、無視しようかなとも考えたが、だが、その声に聞き覚えがあった為に振り向くことにした。
「あんたは」
 少女はにこりと笑っていた。
「やあ、久しぶりだね」
 もう一度久しぶりという言葉を紡いだ少女は、お忘れかもしれないあの少女だ。あやかし関連の事件の時に気付いたら表れ、口から流れ出るままに語り尽くす名も知らない少女。彼女は蓮の前で微笑んでいた。
「お久しぶり。何か用」
「用という用はないさ。見えたからつい挨拶してみたのさ。好奇心旺盛のお馬鹿君」
「そう」
「まあ、でも確かに聞きたいことはあったがね」
「何?」
「先までいた女の子。君の知り合いかい?」
 それを聞く彼女の口元だけに面白がるような色が浮かんでいた。
「そうだけど、何」
「どんな関係なんだい」
「普通に部活の仲間だけど。そんなことどうして聞くわけ」
「イヤ何。あの子は私のちょっとした知り合いだからね」
 へぇなどと気のない返事をする蓮に少女は何が楽しいのかくすくすと笑っていた。悪戯を思いついた子供のように良い笑顔をしている。
「だから、君と話しているのを見て思ったのさ。いつの間に恋人が出来たんだろうってね」
「はぁ」
 訳が分からないと全身で表す蓮にやはり少女はくすくすと笑う。
「違ったのかい?」
「訳が分からない」
正直に答える蓮にニヤニヤと笑う。
「そうかい。そうかい。あの子があんな風に笑う人は実は少ないからね。しかも、それが男となると中々いない。だから、これがいくらただの勘違いだとしても彼女をしてるやつからは幾らだって勘違いされるんだろうさ。しかも、それがいつか本気になったりね」
「ないね」
「分からないよ。人生どう転ぶかなんて。絶対ないって思ってることが本当になったりするものさ。まあ、でも1つだけ忠告しよう」
ふっと彼女の表情からニヤニヤ笑いが消えて真剣なものに成り代わった。
「彼女は、沙魔敷猫はお薦めしないよ。あの子には強力な保護者がついているし、あいつもいたからね。そして、あの子自体が何かと面倒臭いのさ。餌付けでどうにかなる部分を除けば」
お薦めしないよと再度呟いた。
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