Short〜鋼の錬金術師〜

□夢
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夢を見た。
真っ白い空間の中大きな扉の前で誰かが泣いている。
その姿を見たとき、なぜだかとても苦しいと同時にとても悲しかったんだ。



イーストシティ東方司令部。
ここの司令官でもあるロイ・マスタングは目の前にある書類の山を眺めながらため息をついた。

「どうしてデスクワークというものはこうもやる気が起きないのだろうな。」
「大佐、文句はいくらでもおっしゃってくださってよろしいので手を動かしてください。」
「君は相変わらず手厳しいな。中尉」

ロイの有能な副官であるリザ・ホークアイがさらに追加分と持ってきた書類の山を見てもう一度ため息をついたときノックもなくいきなり扉が開いた。
そこには、金の髪に金の眸をもち、深紅のコートを羽織った小柄な最年少国家錬金術師、エドワード・エルリックがいた。

「こんちは。大佐、これ報告書。あとなんかいい情報ない?」
「鋼の…開口一番がそれかい?というか君はいつになったら正しい入室が
 できるんだい。」
「うるせーよ、バカ大佐。
あんたこそいつになったら書類を溜め込まずにデスクワークができるようになるんだ?」

ロイはエドワードに痛いところを突かれ苦虫を噛み潰したような顔をした。
生意気な発言に言い返す言葉が見つからず押し黙りふとエドワードの顔を見てみるとあまりいい顔色ではなかった。
目の下には隈ができており、きちんと栄養をとっていないのか少し痩せたように見えた。
そばにいた副官もそれに気づいただろう。彼の顔を見て僅かに眉を寄せた。

「大佐、それでは残りも今日中にできるよう頑張ってください。エドワード君、大佐が報
告書を読み終えるまで向こうでお茶にでもしましょう」
「え、でも…」
「大佐は読み終えるまで少し時間がかかると思うから、ね?」
「うん、分かった」

ホークアイを姉のように思っているエドワードは優しく促されてそのまま隣の部屋へと移った。
ロイはその後ろ姿を眺めてあのバカはまた無茶をしてと小さくため息を漏らしながら先程エドワードがもってきた報告書を読み始めた。



ホークアイに促されて隣の部屋に来たエドワードは一瞬目の前が真っ白になり倒れそうになったところをハボックに助けられた。

「おい大将、大丈夫か?」

突然のことに驚いたハボックが少し上ずった声で聞いてきた。

「あーわりぃ、ちょっとクラっときただけだから」
「大将ちゃんと睡眠とってるか?きちんと寝ないと背が伸びないぞ?」
「誰が顕微鏡がないと存在すら確認できないほどのどチビかー!!」
「そこまで言ってねーよ」
「ほんとにきちんと睡眠とってるのか?」

いつものやりとりを済ませ先程よりも幾分か真剣な声で今度はぶれたが同じ質問をした。
ハボックの時よりも声が真剣なものに変わったのでエドワードは少し不貞腐れたような声で答えた。

「…ちゃんと寝てるよ」

実際はあの真っ白い夢のせいでキチントシタ休息になってはいなかったが眠っていることは確かなので一応そう答える。
その答えを聞いてハボックたちがどう思ったかは知らないが、嘘は言っていない。
答えたエドワードの不貞腐れた顔を見て性格からしてこれ以上聞いても無駄だろうとハボックたちは肩を竦めて話を切り替えた。

「そういえば大将、アルの奴はどうしたよ」
「アルなら図書館に行ってるって」
「なんだせっかくなら顔出せばいいのに」
「そのうちこっちに来るんじゃないかな」
「でもよー」

そんな話をしているとちょうど紅茶とお菓子をお盆に乗せたホークアイと一緒にアルフォンスがこちらに入ってきた。

「こんにちは、お久しぶりです。」
「おーアル!噂をすればってやつだな」
「噂ってなんか悪口とかじゃないですよね」
「あぁ、図書館に行く前にこっちに顔出せよなーって話してたとこ」
「ごめんなさい。ちょっと気になることがあって」
「なんだ、何か深刻なことか?」

ハボックが冗談めかして聞いてみると

「い、いや、そうじゃないんだけど…」

と、妙に焦った声が返ってきた。その反応にハボックやブレタ、フュリーだけでなくホークアイまでも眉をひそめ詳しく聞こうと口を開きかけたとき、

「鋼の、報告書はあれでいいぞ」

と、タイミングがいいのか悪いのかロイが執務室から出てきた。
なにやら妙な空気が流れさらにはホークアイに軽く睨まれたロイは何かしただろうかと少したじろぐ。

「んじゃ、図書館にでも行って何か新しい情報がないか調べてくっか」

エドワードがそう言って立ち上がったのでお茶のお礼を言って二人は東方司令部を後にしたのだった。






 
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