短話

□新しい365日
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首の痛みで目が覚めた。
昨夜本を読んで椅子に掛けたまま眠っていたらしい。
固まった首を回し部屋を出る。
暗いこの屋敷には鬱陶しいほどの朝の光。
朝食を取りに広間に向かう際、名前の部屋の前を通る。
扉には水晶のようなものが付いており、在室の時は緑、空室の時には透明になる。
今は透明。
いつもは昼前まで寝ているが珍しく早起きをしているらしい。

広間へ着けば屋敷しもべが忙しなく働いている。
テーブルに並べられたのは1人分の食事。

「名前はどうした」

近くを通った屋敷しもべに問えば肩だけでなく全身を震わせた。

「こちらにはいらっしゃいません」
「どこだ」
「私はおっしゃいません!」
「この屋敷の主人に歯向かうのか」

苛々とし、杖を向ければ手にしていたトレーからカップが落ち、派手に割れた。

「ひぃッ!」
「どこだ。部屋にもいなかった。」
「や…屋敷にはもういらっしゃいません!」
「どういう意味だ。」
「私共が使っている煙突で…」
「どこへ行った」
「存じあげません!本当に!」
「…セブルスを呼べ。」
「は、はいぃぃぃ!」

転げるように広間を出る屋敷しもべを見送り、数分後にはセブルスが入ってくる。

「我が君…」
「あの娘が屋敷から逃げ出した。」
「名前が…何故…?」
「さあな。」
「…では私が探しに…」
「待て。これを」

私が押し付けたものにセブルスは驚いたようだったが、それを無視して名前の部屋へ向かう。
中に入ってすぐにベッドの側のチェストに目をやれば、銀細工のオルゴールが部屋の主と共に姿を消していた。









    
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