長話

□言葉と視線 09
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昔昔、小さい頃に日本で買ったスーパーボール。
透明のボールの中に、安っぽいラメがキラキラとしている。
あの頃は投げるのさえ難しいほど重く思えたのに、今は片手にほぼ包まれてしまう。
朝早く起きてしまい、掃除をしようかと引き出しを開けると出てきたのだ。
それを見れば日本を、両親を、友人を思いだし掃除どころではなくなった。
スーパーボールを持ったまま城内をうろつき、癖のように天文塔にたどり着いた。
長い階段を上って目に入ったのは眩しい太陽。
何度となく見た光景も、少し違って見える。
今になってホームシックになどなるものなのかな?
窓を背に座り込み、壁に向かってスーパーボールを投げる。
何度かバウンドして戻ってくる姿は、アクシオを掛けたかのようだ。
考え事をしながらまた投げれば、力加減を間違えたのか、私の頭の上を通りすぎて外の世界に吸い込まれた。
それを追いかけるように立ち上がり下を見れば、見慣れた黒い姿。
ヤバイ!と思い咄嗟に隠れた。
どこに当たったのか(知りたくもないけど)ウッと呻く声が聞こえた。

「−名前!!」
『はぃ〜〜!!』

思わず気をつけの姿勢で立ち上がれば、こちらを見上げるスネイプ。
頭に手を当てている、ということは、そういうことだろう。

『ごめんねー、まさかこんな時間に人がいて、しかも当たるなんて…』
「降りてこい。」

肩を落として階段を下りる。
そこには既にスネイプがいた。
仁王立ちで。

『もしかしなくても頭?』
「あぁ。わざとかのようだな。」
『違うってば。でも私だってよくわかったね』
「…あぁ。」
『スネイプが振り向く前に隠れたのに。』
「…こんな朝早くに生徒が彷徨いているはずがない。振り返った先は天文塔。そうなればお前だろう。」
『そっか。…さっき、名前で呼んだ?』
「?!あ、れは…」
『まぁいいや。じゃ、私もセブルスで。これでおあいこー』
「お前はいくつだ」
『同窓でしょ。忘れたの?』

ニッコリと…いや、ニヤリと笑えば苦い顔をされた。

「"忘れた"のはお前の方だろう」
『ん?私が何忘れたの?』
「いや、いい。それすら忘れているんだろう」
『ちょっと、気になるでしょ。』
「しなくていい。戻るぞ」
『部屋に?朝食まではまだ早いし、私の部屋で紅茶でもどう?』
「…いただこう。」

そして朝食までの少しの時間、私の部屋で静かなお茶会をひらいた。





   
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