短話

□新しい365日
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「新しい365日」




異世界から来たと言い張るマグルの名前。
時々予言めいた事を口走るため殺すに殺せないままこの屋敷に住んで半年以上経つ。
日々面倒事を起こしては死喰い人に睨まれているが本人は気にもとめていないらしい。
そうして少しずつこの闇に飲まれた場所で馴染んできたこの娘は、相変わらず光を放つ。
日本人らしく礼節だけは崩すことなく、ノックしたあと扉を開き「失礼します」と聞きなれた声がした。


『ねぇ、卿。なにか欲しい物はない?』
「…何を企んでいる。」
『失礼な!明日誕生日でしょ』
「衣食住を世話されている人間のセリフとは思えんな。」
『…それを言われると…でも何かしたいの。』
「何もするな。」
『ダメ!何でもいいから言ってよー。』
「…」
『物でもいいし、それ以外でもいいからー。』
「…」
『ぇ、考えてるフリして無視?』
「煩い」
『日頃の感謝をカタチにしようとして何が悪いのー。』
「…静寂だな。」
『ん?』
「欲しい物だ。静寂を。」
『…了解。…期待しててね。』

魔法界の統制を目の前にし、死という手段で手を広げている私が本心で静寂を望む訳もない。
名前もそれを分かっているものと思っていたが、大人しく引き下がったようだ。

この半年で、名前の見方は思いがけず増えている。
はじめは屋敷しもべだった。
格下の相手を見下げるということが出来ず、用意された食事やホコリひとつ残さない清掃に対して感謝をする始末。
この屋敷の誰も知らない屋敷しもべの名前を全て覚え、世間話の相手にしているらしい。
それからセブルス・スネイプ。
魔法を必要としない薬学の教授と知るやいなや、私に材料の購入を押しつけ学習しているらしい。
そしてルシウス・マルフォイ。
セブルスから学んだ薬学を応用し、任務で怪我をして戻ったルシウスに塗り薬を渡した。
そうしてルシウスは、この屋敷に来るたびに手土産を携えて来るのだ。

そういえば。
今日ルシウスが持ち込んだ情報を精査する必要がある。
分厚い本を手に取りページを捲る。










    
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