あやかし物語

□疑心暗鬼(ぎしんあんき)
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キィと音をたてて下駄箱をあける
そこで赤司はため息をついた



「またか…」




この学校に入学してもう何度目かの事
そう、そこには小さめの可愛らしいデザインの封筒が置いてある
俗に言うラブレターというやつだ





《赤司征十郎君へ
いきなりお手紙を書いてごめんなさい
どうしてもあなたに直接伝えたいことがあります
水曜の放課後よかったら屋上に来て
ください
待っています 小島 美香より》



そう手紙には綴られていた
小島という女子が誰なのか
水曜の放課後に時間があるか
そんなことはどうでもよかった
答えは既に赤司の中では決まっていた




高校になってこういう沙汰のことが結構頻繁に起こる気がする
正直面倒ではあるが、
シカトはさすがに出来ない
だからいつも直接会って言葉巧みに断る
今回も…そのつもりだった








屋上への扉を開けると既に1人の女子が待ちぼうけをしていた
赤司は彼女だと確信し歩みを進める




「君が小島さんかい?」



「あ、はい…赤司君
来てくれたんだね」




頬を赤く染めてそう答える彼女
だがそんな反応も見慣れた赤司は対してどぎまぎもせずいつもと同じ調子で続けた





「話って、告白?」




その言葉を聞いて明らかにびくりと反応する相手
わかりきったことをわざと遠回しに聞くのも面倒なので、単刀直入に言う
するとゆっくりと頷いた




「私…入学式の時から赤司のこと気になってて
何度も何度も言おうか迷ったんだけど、やっぱり後悔すると思ったから

赤司君、私
あなたのことが好きです!
付き合って貰えませんか?」





「悪いけど、答えることは出来ないよ」




悲しみの表情で赤司を見つめる彼女
それは好きな人がいるから?
そう聞いてくる



「あぁ」




この学校?だとか、誰?とかしつこく聞いてくる女も今までの中にはいたが、この子はそうでもなかった
わかったと言うのを聞いてほっとしていると思いがけない言葉…





「じゃあ、一回私とデートしてくれる?そしたら諦めるから…絶対」




若干赤司は顔をしかめる
そんな願いをしてきたのは彼女が初めてだ
休日は部活がある
そんな暇はない




「それは、困るな
僕も部活があるから」




「オフの日の1日でいいから!
なんなら平日のちょっとした時間でも、お願い!!」




弱った、これはテコでも動かないか
案外往生際がいいと思ったら
なるほど厄介である





「…わかった
平日の部活がオフの日、
ただし1日だけだから
それ以降はもう聞き入れられない」



「!ありがとう赤司君」





手放しで喜ぶ彼女
たった1日だけのそんな気休めで満足なのか
女は本当に訳がわからない
中には肩書きが目当ての計算高い女もいる
これだから不特定多数の女子は好きになれないな…







部活を終えていつも通り帰宅をする
シキが笑顔で出迎えてくれる
最初はこんなやり取りが照れ臭かったけれど、今ではもう慣れた




『お帰りなさいませ!征十郎』




他の女など目に入らない
今僕が夢中なのはシキしかいない
彼女を手にいれるにはどうしたらいいか考え、どうしたら喜んでくれるか…
そんなことばかり

だから昼間にあんな約束をしてしまったことは不本意だった






『明日は部活オフでしたね?
早く帰られますか?』




「いや、少し寄るところがある
明日は先に夕飯食べてていいから」




『そう、ですか?わかりました』





何も知らず笑ってる彼女に後ろめたい気持ちを隠して
赤司は自室へ向かう

一回相手に付き合ってさよならをすればいいだけだ
何てことはない
適当にあしらってそれで終わり
悪いとは思わない
そもそも向こうからそれでいいと言ってきたのだ
赤司にとってはこんなものなんの揺らぎにもならない




ただ…
このことを万が一シキが知った場合
少しでも嫉妬してくれたなら、と
思わないでもない


最近は葉山先輩やら黄瀬やらモブやら…
シキにちょっかいを出している場面が多々あるだけに
それをなんとも呑気に捉えている彼女に
苛々する事が多かった

自分ばかりこんな気持ちになるなんてしゃくだ









そんなことを思いながら
赤司は眠りについた
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