スノーホワイト

□彼と満月の秘密
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「雪乃ちゃーん?シャワー浴びてきなさーい」



『はーい!』




母親の何気ない一言
偶然に耳に入ったそのワードに思わずドキリとする
バタバタと風呂場に向かっていく雪乃を横目で追って
すぐに今さっきまで見ていたバスケの雑誌に目を戻した



最近
こんな状況でどう反応したらいいかわからなくなる
シャワーとか着替えとか
そういうワードを聞いた時に耳が勝手に反応してしまうのだ
気にしなければそれでいいのだが、
それが出来ないから苦労している



一応母親もそういう面は最新の注意を払ってはくれるが、
前に…というかつい最近
部屋干しの為に雪乃の下着が干してあった時には驚いた
親が偶然間違えてしまったらしいのだが

そのままリビングにいられる筈もなく全力で自室に駆け込んだのを覚えてる





年頃になるとそういう事も出てくるわけだ
今になってそれが理解できるようになった
本当に困る





『お兄ちゃん?』




「え、あぁ…上がった?」




『うん、次入ってきていいよ』




無邪気にそう言う彼女が時たま憎らしい
人の気も知らずに
意識…しない筈ないだろう
それでも、そんな事は言えないから
いつも笑って受け流すしかない




シャワーを浴びていると
偶然雪乃の使用しているシャンプーが目に入った
いつもは使った後はすぐに自室に持っていくのに




「…部屋に持っていくの忘れたんだ」




仄かにまだ残るそのシャンプーの香りが辰也の鼻腔をくすぐる
体一杯に広がる彼女の香りが心地よくて、その香りに酔うように思わず目を閉じた



「何してるんだ、俺…」



そこで我に返り
自分らしくもない行動しぐさに
激しい後悔の念を抱いた

駄目だ…
一度意識したらこんなにも

こんなにも取り返しのつかない所まで大きくなるなんて
思いもしなかった

雪乃は、俺の事を意識しないのだろうか?
本当にただのお兄ちゃんとしか思っていないのだろうか?
だとしたら少し…寂しい





風呂から上がると雪乃はいつのまにかパジャマ姿でソファーに横になっていた




「あ、ちょうど良かったわ辰也
雪乃ちゃん部屋に連れて行ってあげてくれないかしら?寝ちゃったみたいなのよね」



些か抵抗はあったが、断る理由も特にないので、仕方なく辰也は雪乃を抱き上げて階段を上がっていった

彼女の部屋の戸を開けてベッドに下ろす
規則正しい寝息が耳に届いた
本当に白雪姫のような愛らしい寝顔




「俺は…どうしたらいいのかな、雪乃」



決して返事が返ってこないと知った上で彼女に話しかける



「俺たちは、兄と妹だけど
元は赤の他人同士だから
こんな気持ちになるのはおかしいことじゃないと思うんだ」



優しい手つきで雪乃の髪をすいていく
まるで深い眠りから抜け出せない姫のごとく微動だにしない
それをいいことに、辰也はゆっくりと身を屈めていく




「好きだよ、雪乃
…許して」



そうつぶやくと同時に
そっと…
彼女の額に唇を当てた



この夜の事は
彼と、窓から覗く満月だけの秘め事
もう戻れないのなら


せめて許しを請わせて…

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