Last Lovers
□相容れない
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笑い声をあげながら廊下を駆ける男子生徒
ファッションや恋バナに花を咲かせる女子生徒
昼休みのホグワーツはより一層活気が溢れかえる。
そんな中を彼 レギュラス・ブラックは無表情かつ一点の迷いなく闊歩していた。
その理由は他人からの余計な絡みを回避すること、そして何よりレギュラスにとって人付き合いそのものがあまり得意ではないことにあった。
ブラック家の次男
というだけで数か月前の入学したての頃から既に色んな人から贔屓目にされたり、女子には黄色い声をあげられたりする。
だが恐らく今の彼に自ら話しかけようとする者は極めて少ないだろう。
それなりに冷たく人に当たったりポーカーフェイスを気取っているのが常であった。
レギュラス自身それでいいと思っていた。
幼い頃から媚びを売る人間の姿を飽きるほど見てきた。嘘偽りで塗り固められた感情や笑顔は見ているだけで吐き気がする。
この貴族社会を生き抜く術は身につけてきているつもりだったが、それでもまだ一年生である彼にとっては、解せないこともあった。
「そういやさ!この前ゾンコで新発売だったやつ買ったんだけどあれ使えるぜ」
「まじで?!お前いつ買ったんだよ俺も連れてけよ」
「じゃ次のホグズミードだな!」
ちらりと横目にそんな会話をしている彼らを見る。楽しそうに肩を組みながら歩いている様を見て、レギュラスは無意識に舌打ちをした。
(呑気に笑ってるなよ)
のうのうと生きている奴らを見ても苛々してしまう。お前らはいいよ、普通に生活して生きていればそれでいいんだから。
でも僕は
僕は、ブラック家の人間だ
親の期待に答えねばいけないのだ
大人が言う”いい子”でいなければいけないのだ。
それがブラック家次男坊として生まれた僕の、生き抜く術だ。
僕はこんなにも必死なのになんで
なんで...
「危ない!!!」
パシャン!!
嫌な音と同時に顔面にひんやりとした感触が広がる。
一瞬何が起きたのかわからなかった
いや、わかりたくなかったという方が正しいかもしれない。
肌についたパイを指で掬い取ると自然と眉間に皺が寄った。
あちゃー...という声や、大丈夫か?という声
相手が誰かなどすぐにわかった。と同時に沸々と湧き上がる怒り。とりあえず一発殴ってやりたい衝動を懸命に抑え言葉を発しようとした時だった。
『こらーー!食べ物を粗末にしないのー!!』
遠くから女子生徒が走ってきて悪戯仕掛け人の頭を順番に持っていた本で叩いていく。
あまりにも鮮やか過ぎて開いた口が塞がらなかった。痛みに悶絶している彼らに満足するとくるりとこちらを振り返る。
ビクリと肩が震えた。
思っていたより整っていた容姿に柄にもなくドキリとする。
彼女を知らなかったわけではない、まあ直接話をしたことがあるわけでもないが。
兄繋がりでポッター先輩、そしてその想い人であるエヴァンズ先輩の友人としてレギュラスは記憶している。
そして彼女がマグルの血を引いた混血であると知っていた。
彼女は男子からの人気が高いと有名であり、
スリザリンでは良くも悪くも噂されている人だった。
レギュラスは一息吐くとローブのポケットからハンカチを取り出そうとしたが、彼女のほうが早くぐいっと頬に拭き取られる感触がした。
『大丈夫?君、この馬鹿達本当に馬鹿でごめんね?』
シ「おいシャロン!馬鹿馬鹿言いすぎだろ俺たちのこと!」
ジェ「僕たちは後ろにいたスニヴェリーを狙って
リマ「言い訳はレギュラス君に謝ってからにしようか」
とばっちりを受けたこともあり、黒い笑顔を浮かべるリーマスの一言でシリウスとジェームズがぐっと口を噤むと、か細い声でごめんと謝った。
レ「別にもういいです。あなた方が馬鹿だということが再確認出来たので」
この一言にかちんときたらしいシリウスが何か言いたそうだったがピーターがあわあわとし始めたところでリーマスの無言の圧力に気づき冷や汗を垂らした。
先生が駆けつけて面倒なことにならないうちにこの場を去ろうと彼女に一度向き直る。
いくら相手が純潔でなくとも、やはり示しはつけておきたい。
テルジオとハンカチに呪文をかけると丁寧に折りたたんで差し出した。
レ「ハンカチ、ありがとうございました。では僕はこれで」
『あ、どういたしまして』
ハンカチを受け取ると、目を見開いて僕をじっと見つめてくる。少し顔を近づけられなんだか居たたまれなくなり目線を外そうとした時、口元に残っていたらしいパイをちょいっと掬って、あろうことかそれをぱくりと咥えたのだ。
レギュラスとシリウスがほぼ同時に真っ赤になり息を飲んだ。
な、な、いきなり何をするんだ...この人
甘くて美味しい〜と幸せそうに顔を綻ばせるホワイト先輩。レギュラスが気づかなかったところにまだ付いていたパイを次々と口に含んでいく先輩に羞恥の限界を感じた彼はもういいですからと制す。ちょっと残念そうなのはなぜだろう。
本人は至って恥ずかしげもなく行ったことらしい
そして彼女はそこら辺の女子は明らかに違っていた。
『だってパイは食べるためのパイだよ?床に落ちない限り大抵は食べられるんだから、ね、美味しかったよ』
そしてそう言いながら元来た方向へ去っていった。
淑女とは思えない言動
まして貴族のお嬢様がほとんどのスリザリンで育ったレギュラスにとって、かなり衝撃的であった。
あの人...ただパイを食べたかっただけなんじゃ
そう思ったとき自然と口元が緩むのを感じた。
シャロン・ホワイト
面白い人だな
でも彼女は混血の生まれだ。もうこれきり話すこともないんだろうが
ちらりと兄のほうを見ると悔しそう拳を握りしめてこちらを睨み付けていた。
レ「羨ましかったんですか?」
シ「違ぇし!!!」