Last Lovers
□この想いは本物であると
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決して健康的とは言い難い肌に、男子にしては長髪な黒髪を揺らして一人廊下を歩く少年。
セブルス・スネイプは右手でローブの中にある杖を握りしめる。
本来なら歩きながらこんなことする必要性は皆無なのだが、いかんせん憎らしい奴等に万が一遭遇した場合に備えているのだった。
その為か、不意に誰かに呼び止められると咄嗟に杖を構えてしまう。
今もまさかにその状況だ。
『び、びっくりした…いきなり杖向けられたから殺されちゃうかと』
ス「…お前か」
相手が誰だかわかるとスネイプは軽く溜め息をつきゆっくり右手を下ろす。
両手を高く上げて降参のポーズをとりながらびくついている女の名前はシャロン・ホワイト。
憎きグリフィンドールの例の奴等とつるんでいる彼女には当初警戒心しかなかったが、ちょっとした挨拶を交わす程度の間柄にはなっている。
ス「何の用だ」
『あ、あのね!ここが自分で考えてもどうしてもわからなくて…スネイプならきっとわかると思ったから、その』
ス「…教えて欲しいんだろ、貸せ」
『ありがとうー』
という具合によく魔法薬学の宿題やレポートに関して質問しにくるのだ。
一度同じ寮にも“成績だけは“(ここ重要)いい奴等がいるのだからそいつらに聞けば事足りるだろうと言ったことがある。
しかし、魔法薬学はあなたが学年で一位だから得意分野にしている人に聞きたかったと答えた。
その時、あいつらよりも優れているのだと妙に優越感を得たのでスネイプは満更でもなかった。
彼女はグリフィンドールである。
混血でもあり、スネイプにとって毛嫌いするには充分すぎる要素を持っていたにも関わらず、今こうして普通に接せられているのは…きっと彼女の人当たりの良い人柄のせいなのだろう。
ふんふんと相槌を打ちながら聞いているシャロン。
やがて理解できたことが嬉しかったのか蔓延の笑みを浮かべありがとうと綻んだ。
そんな様子を見ればスネイプも不思議とつられて笑みを浮かべられそうな気がした。
『呼び止めてごめんね、助かったよー、じゃあまたね!』
ひらひらと手を振るとまた元来た道を戻っていった。
本当にわからないところを聞きに来ただけだったのか。
よくそこまでして、わざわざ他寮の僕のところにくるものだ。
未だにシャロンという少女がよくわからない…
顎に手を当てながらそう考え込んでいると、前方に人がいることに今さっき気付いた。
誰だかはもちろんスネイプも知っている人物であった。
ス「…レギュラス、そんなところで突っ立って何している。」
レ「え、あ、いや…僕はたまたま」
には見えないがな…
何となくそう思ったが触れないでおこうと考えた。
スネイプが訝しげに彼を見ると、レギュラスは何か言いたそうに視線を僅かにさ迷わせていた。
ス「……何もなければ先に談話室に戻るぞ」
レ「え?!ちょっと待ってください!」
ス「だからなんなんだ、お前らしくないぞ、そんなに挙動不審になるのは」
僕らしく…そう彼は呟くと頭をわしわし掻き始めたのだった。
本当にどうしたのか、スネイプには全く見当がつかなかった。
レ「……スネイプ先輩は、その、ホワイト先輩と仲いいんですか?」
予想外の言葉にスネイプは僅かに目を見開いた。
ス「別に仲がいいわけではない。向こうから一方的に話し掛けてくるだけだ、たまに勉強を教えてくれとせがんできて…レギュラス?」
見るとどんよりと落ち込んだ様子で壁に手を当てながら顔を伏せていた。
彼らしからぬその光景に思わずぎょっとした。一方的に…向こうから…せがんで…、などぶつぶつ言っているものだからかなり、怖い…
レ「なんで向こうから先輩のもとに来るようになったんですか、あれですか、惚れ薬ですか、先輩だってスリザリンで純潔じゃないですか、別に明るくて社交的なわけでもないのに、なのになんで、なんて羨ましい…」
最後の方は消えるようにそう言うレギュラス。若干悪口になっていたのはあえて気にしないでおいてやろう。スネイプはここまで聞いてある答えに行きついた。
ス「お前…シャロンが好きなのか」
レ「!っ…べ、べべ別に違いますよ、好きなわけないじゃないですか、ブラック家である僕が混血であるあの人を?ないですよ!」
顔を真っ赤にしながら全力でそう否定する彼を見て、あぁ…これは、とかえって確信させられた。
スネイプは溜め息を吐くと、レギュラスに詰め寄る。
ス「別に恥ずかしいことではないと、思うぞ」
レ「え…」
ス「僕も、マグルや混血は嫌いだ…でも、中にはいい奴もいる。」
ス「堂々と、とは言えないが…あいつのことを好きになってしまったのならそれは仕方のないことだ。それに、僕はお前の兄なんかより断然お前を応援する。」
レ「ありがとうございます…」
レギュラスが年相応の少年らしい笑みを浮かべた途端、先輩の好きなものは何か?とか誕生日はいつか?などひっきりなしにスネイプに問い詰めた。
他人にはとことんこの想いの丈を秘めていたのだろう。
彼の家が自由が効かないのはスネイプも知っている。だからこそ、人間らしい彼を見ることが出来たのは何となく嬉しかった。
ス「好きな食べ物はレモンパイと言っていた気がするな」
レ「レモンパイですか、なるほど」
ス「誕生日は…11月ということは知っているが詳しいことは知らない。」
レ「えーー…そこなんとか聞いてくれませんか?」
ス「自分で聞けばいいだろう」
レ「それが出来れば苦労してません」
ある名案が浮かんだスネイプはしゅんっとするレギュラスに対しこう言った。
ス「僕に任せておけ」
レ「?」