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□光と影
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夕暮れの光が差し掛かる刻
一人の少女はスクールバッグを肩に
昇降口を後にする

洛山高校の校舎は昇降口を出て校門へ行くまでに、必ず体育館の前を通る構造になっていた

帰宅部である彼女はいつものように歩きながらチラリと..
まだ部活中である体育館の方へ目を向けた



『よかった、今日は戸が開いてるんだ』



近頃は暑くなって来たからだろうか
体育館の戸は解放されていて中の様子が見れるようになっている
彼女はその中からある人物を探す


いた



燃えるように赤い髪を乱して
キュッキュと摩擦音を響かせながらコートを駆け巡っている
時折チームメイトに指で指示を仰ぎ、司令塔としてのその実力を発揮しているようだった


赤司征十郎
彼が視界に入るだけでとくんと胸が高鳴る




『赤司君…』



そう彼の名が無意識に口から溢れたとしても、彼には届かない
私と彼とでは住む世界が違うから
こうして眺めるだけで一杯一杯なのだ


周りに敷かれたレールに沿って
偏差値の高い洛山高校に進学し、
自分からやろうと思った趣味も特別持たず今の今まで生きてきて、気がつけば自分はなんの取り柄もないつまらない人間であると…自分を卑下するようになってしまった



そんな時に彼を見た
凄い…素直にそう思った

赤司君は東京から一人身でこの遠く離れた京都へ来たという
一年生にしてバスケ部主将を務めるほど並外れたリーダーシップ性の持ち主
であり、成績優秀、容姿端麗、全てが完璧な彼


初めて出会った
こんなにも自分と180度異なる人
いつしか彼は憧れだった
あぁなりたいと思ったわけではない
赤司はもはやナナシにとって
神のような存在だった



尊敬を通り越してもはや崇拝に域に達しているかもしれない
それと同時に確かな…
恋心も芽生えた






「あ!ごめーん!!」



突如どこからか発せられたテンションの高めな声でハッとした
目の前にバスケットボールが転がってきて咄嗟に押さえて止める



「ありがとう!てか本当ごめん
どっかケガしてない?」



両手を合わせて申し訳なさそうに謝る目の前の男の人
確か、葉山先輩…だったような



『だ、大丈夫です!お気になさらず…あの、ボールどうぞ』



出来るだけ平静を保とうと頑張ってもこれが私の限界
さっさっと消えてしまいたいと思い慌ててボールを彼に差し出した
あの人がこの騒ぎを聞き付けてくる前に…









「だから言っただろう小太郎
調子に乗って指一本でドリブルなんかするからだ」



「あり?やっぱ見つかっちったかー」




凛とした声が響き思わず体が跳ねそうになる
いつの間にか側にいたらしい赤司君の顔をすぐに見ることは出来なかった
心臓がどくどく鳴って今にも倒れてしまいそう
若干涙目になりながら、ゆっくりその場を立ち去ろうとした…のだが





「今の反射神経はなかなかだったな」



まさか自分へ投げ掛けられた言葉だとは思ってないナナシは、そのまま回れ右をして歩を進めようとする



「君のことだよ、夢野ナナシ」




え?



私?…



ふと赤司の方へ向き直ると真っ直ぐにその強い瞳を向けられた



「頭をぶつけなくてよかった」





そう言うと赤司は葉山を連れて体育館へ戻って行った
茫然としていた
今…




名前…呼ばれた





今の今まで話したこともないのに
ただ学年が同じというだけでクラスだって違う
彼が私を知っていてくれていたなんて

どうしよう
凄く嬉しい…



自然と笑みが溢れた
今夜は、幸せな夢が見れそうだ
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