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□もしもの話をしよう
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今俺は闘っている


柄でもないけど、かなり屈しそうな状況にある



っていうのも…




『うぅ…この漫画感動するなぁ
どうして結ばれなかったんだろう
お互い想いあってたのに』




「勝手に妹の部屋漁って、怒られても俺フォローしないぞ」



『あの子なら許してくれるよ』



「はぁ…」



別に幼なじみが漫画読んでるだけなら構わない
字面では伝わらないかもしれないが問題は彼女の格好である


制服のスカートのまま俺のベッドに横になっている
だからさっきから見えそうで見えないという何ともむず痒い状況

仰向けなので長い栗色の髪が四方八方にベッドに散らばっている
いくら幼なじみだからと言ってももう年頃の男女同士だ

何より厄介なのは俺が…



ナナシに幼なじみ以上の気持ちを抱いているということにある



合宿の時の風呂覗き事件
俺はあいつらとは違って、こういうことにはしっかり理性を保って冷静になれる自信があった

だが…
今この状況を考えると、何となく日向達の気持ちがわからなくもない
所詮男は男なのか




「なぁ」



『ん?』



「見えるから」



『何が?』




もうここまで言ったら普通感ずくよな
駄目だ…この天然娘は



頭を抱える伊月を他所に漫画に夢中になるナナシ
そこでふと彼女が口を開く




『ねぇ…俊ちゃん?
もしも私が病気になったら、
俊ちゃんは私の側にずっといてくれる?』



「え…」




一瞬何でそんな事を、いきなり聞いてくるのかと思った
そしたらあぁ…今ナナシが読んでる漫画の話かと気づき
冷静さを取り戻す


そんなの決まってる
だって[もしも]なんて話じゃないんだ
既に俺はお前を…
好きなんだから
小さい頃から一緒に育ってきた
気持ちだって、本物だと言い切れる





「側にいるよ…ずっと、
お前が病気だってそうじゃなくたって、何があってもずっと…側にいる」





ポカンとした表情でこちらを見つめてくる
言ってしまってから全身の熱が上がるほどの恥ずかしさが込み上げる
こいつはもっと軽い気持ちで聞いてきた筈なのに





「あ、いや、これは…」




慌てふためいているとナナシはクスリと笑ってベッドから降りてくる
瞬きをした瞬間には目の前に彼女の顔が視界に広がっていた




『俊ちゃん、顔真っ赤』




「……」





『ありがとう
そう言ってくれて嬉しい
それに、今の俊ちゃんの言葉…この漫画の男の子より男らしかった』






思考が回らなかった

ナナシの顔をこんなに近くで見たのは久方ぶりで
こんなにも美しく成長していたなんてと…驚きを隠せなかった


好きだという自覚はあったが
改めて見ると、激しく愛しい気持ちが溢れた

これからこの先
このままの関係が続くことに
恐ろしい程の焦りを覚える




『俊ちゃんが幼なじみで、私は幸福者だね』



……


この言葉を聞いて
やっぱり
彼女は俺をただの幼なじみとしか見ていないのではと思った
それが酷く悲しくて、伊月の表情を歪めるのは容易だった



「俺が幼なじみでよかった?」



『うん!』



「じゃあ、家族でもよかった?」



『え?』



「幼なじみって小さい頃から一緒にいるんだから、家族みたいなものだろ?」



『あ、そう…だね』




ここに来て言葉に詰まるナナシ
、意外な反応にもしかしたらという気持ちが湧き始める
我ながらズルいやつだとは思うが、
このまま押せば…





「俺は、お前と幼なじみなだけは嫌だし、この漫画みたいなオチにもなりたくない」



『俊…ちゃん』




「俺の言ってる意味がわかったら『ま!待って!!』




今度はナナシが顔を赤くする番だった




『家族じゃ俊ちゃんと結婚出来ない!』




いきなり何を言い出すのかと思ったら、まさかの爆弾発言だった
咄嗟に口走ったのか
ハッと口元を押さえて俯く彼女

やがてそろそろと視線を戻すと、
途切れ途切れに言葉を漏らし始めた





『しゅ…俊ちゃんはそんな気ないかもだけど、私は…こう思ってて、嘘じゃないよ!いや、っていうかそれ以前の問題だよ、ね…あぁぁぁごめん今の忘れて!!』




クルリと背を向けて縮み込んでしまった
そんな様子を見て開いた口が塞がらない
と同時に嬉しさが込み上げる




「ナナシ」



『っ……。!!』




ゆっくり後ろから彼女の背中を抱き締める
ビクリと震えてそれでもされるがままになってる彼女は可愛かった




「俺と同じで嬉しい」



『俊ちゃんも?』



「あぁ、俺は
ずっと前からナナシのことが好きだったよ、もちろん一人の女の子として、
なかなか言えなくて…ごめんな」





それを聞いた途端に泣き出してしまった
伊月はあやすようによしよしと背中を叩く



「ナナシは天然だよな
色んな意味で」




『うぅ…ごめん…なさい』



「でも」




お前のそんなところがキッカケでお互い歩み寄れたんだから、
感謝しなきゃだ



初恋であり、片想い…否、
両想いの相手

いつから好きになったとか、正直はっきりとはわからない
始まりは曖昧なものだけれど、
それでも

一生守りたいと思える女の子は
この先何年探してもきっと
ナナシだけな気がするんだ





『俊ちゃん』



「?」




『ずっと隣にいてね』



「もちろん」

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