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□夜蝶に捕らわれて
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ルナでの一件から、かれこれ2週間が過ぎた。

未だ先輩の姿はここにはない。
1,2度廊下で見かけたけど、先輩は声もかけず目も合わせずに行ってしまった。
また隼人たちも視線すら向けずだった。

分からない・・・

学校では先輩の噂がどんどん大きくなっていた。
俺が隼人たちを使って先輩を仲間外れにしたとか…
先輩が隼人たちを裏切ったとか…

噂とは怖いものだ。
誰かがほんの冗談で呟いた些細なことでもいつしか一人歩きしていく。
しかも人から人へ・・・・・伝わって行く毎に内容は変わり、大きくなっていく。
いつしか独り立ちして嘘でも本当にしてしまう。


広瀬先輩・・・
ごめんなさい・・・俺のせいで・・・・・



「蒼樹」
「あ…何?隼人」
隼人に呼ばれ、今昼食中だったことを思い出す。
「何って、お前…アイス溶けてんぞ?」
「あ!勿体ないっ」
隼人の言葉に俺は慌ててアイスを口へと運んだ。
「「・・・」」
隼人たちは何か言いたげに俺を見ていたが、俺はそれに気づかないふりをした。
「蒼樹・・」
「あ、琴音。俺、今からちょっと親父のとこに行ってくるから」
俺は琴音の声を遮りそう言うと、空になった器をトレーに戻した。
「蒼樹っ」
「今日は本当に親父のとこだから!
悪いけど、先に教室に戻ってて。んじゃ、俺行くから」
早口でそう言うと『ご馳走様』と手を合わせて立ち上がり、呼び止める声を無視してその場を後にした。


やっぱり俺、どうしても納得できない。
お互い向き合いもせずに逃げたままじゃ何の解決もできないと思う。

・・・・俺、間違ってんのかな?

俺は理事長室の前で深呼吸をし、ドアをノックした。
中からは『どうぞ』と親父の声がして、俺は静かにドアを開けて中に入った。
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