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□最果て
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夜の帳が降り始め、今まさに街を侵食しようとしている、と彼は思った。
自身が名前を持つ意味は無く、ただ純粋な狂気だけが自身を取り巻く全てだと自負していた。

彼の名前は01〈ゼロイチ〉。
戦闘に特化させられた新人類とでも呼ぼうか、己の望みとは関係なくただ、力を持つ人間を滅ぼすために生み出され、今までもこれからも他人を殺すことを目的とした殺戮兵器の中の1つのただの人間だった。

強靭な肉体を持ち、簡単に人間を殺せるようにプログラムされた、身体。
機械のように正確に人間を屠ることをいつでも可能に出来るよう、作られた思考。
彼の存在はこの世に溢れた人間達と何一つ変わらなかったが、彼の在り方は世間一般にいる、人間とは全くの別物だった。
そして、作られてから今まで何十年もの間、その強さから人の形をした化け物と呼ばれる存在になるのにそう時間はかからなかった。
彼は今日も無数に広がる夜の街を見ながら感傷に浸るような心もなく、ただ毅然として闇を見据えていた。
心は今日も燻っているような、かといって得体の知れない焦燥感がこの身に宿っているような不可思議な感覚。

心臓が一定数のリズムをこの胸に刻む間は何一つ変わるものなどないだろうと確信しながらも、彼、01はただこの世の先を見やる。

これから先もずっとこの調子なのであろうと思うや否や、代わり映えしない己の世界を塗り替える為、宵闇へと身を落としていった。

そこには、今はまだ明確な殺意はなく、夜の闇に紛れた濡れて澱んだ瞳が光るだけだった。

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