Novels No1

□とまどい
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「ったく何でこんなに降るんだ…。」
今日は朝から雨が降っている。夜になりその雨もより激しさを増してきた。
ある宿屋の一室。煙草とビールを飲みながら、三蔵がぼやいていた。
未だに雨の夜は眠れない…。雨の日は苦手だ。
あの日の事を…あの人の事を思い出す…。

コンコン。
「よぉ〜起きてるか、三蔵?一緒に飲まねぇ?一人でのんでてもつまんねぇし。三蔵?」
ビールを片手に元気よく入って来た悟浄は、窓の外をずっと見ている三蔵の肩をポンと叩いた。
「おい!どうしたんだよ三蔵!」
悟浄は三蔵が振り向くなり慌てて問いかけた。あの三蔵が泣いている。綺麗な白い頬に一筋の涙を流していたのだ。
「…何でもない。」
三蔵は慌てて涙を拭ったが、止めどなく涙は溢れてくる。
「何でもねぇわけねぇだろ。何でもなくて涙なんか出るか?どうしたんだよ?」
悟浄は優しく問い掛けたが、三蔵は
「お前には関係無い事だ…。」
冷たくあしらい、悟浄に背を向けた。
「また思い出してたのか?お師匠様の事を…。」
「お前には関係無い事だろう!お前に何が分かる!ほっといてくれ、さっさと出てけ!」
三蔵の言葉が言い終わるか終わらないかのうちに、悟浄は三蔵を強く抱き締めた。突然の事に一瞬振り払うのを忘れていた。
「なっ!何のまねだ!離せ!」
三蔵は我に返り悟浄の腕を振り解こうとするが、力では悟浄には適わない。もがいている三蔵をより強く抱き締めた悟浄は
「ほっとけるわけねぇだろ…分かんねぇのかよ、俺の気持ち…?どうして…どうして俺じゃ駄目なんだよ。」
「悟浄…。」
そんな寂しげな悟浄の顔を見上げ三蔵は呟いた。
知らなかったわけじゃない…。ただ…もし悟浄の気持ちを受け入れてしまったら俺は…あの人の事を忘れてしまうのではないかと不安だったのだ…。でも悟浄の気持ちは痛いほど分かっていた。

どうすることも出来ないやるせない気持ち…。

三蔵もまた悟浄に惹かれつつあったのだ。

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