いつだって、幸せになって欲
しいと願っていた。    





『…視察、ですか?』   
「はい。真面目なのはいい事
ですが些か根を詰めすぎです
なようです」       

気晴らしにとの提案に貴女は
疑いもなく頷いた。    
ありがち嘘ではないがこうも
無垢な笑顔を向けられては、
自制が効かなくなりそうで、
困る。          

「私は右から、貴女は左回り
でお願いします」     
『はい!』        

(しっかり見てきて下さい。
私と貴女が見守っていくこの
世界を)         

火車さんに乗って小さくなっ
た貴女の姿に目を細める。 

幾度となく追った姿に幸せで
あればと願い、過ごした月日
は覚悟を決めさせるのに充分
だった。         

いつの間にか、幸せにしてや
りたいと思うようになってい
た。           





『あ、鬼灯様ーっ!』   

あの世を二人で一周、出会い
頭に私を見て手を振る貴女に
未来を重ねる。      
忙殺された日々が、例え穏や
かでなくともきっと愛しいも
のになる。        

「では閻魔大王へ報告に行き
ましょうか」       
『はい!』        

閻魔庁までの道を手を繋いで
歩く。          
頭二つ分小さい貴女に合わせ
て、絡めた指がほどけない様
にゆっくりと。      

『…なんか、こういうのって
幸せですね』       

照れて俯く貴女に手を強く握
り返す事で答える。    

こんな事では困ります。  
貴女は、もっと幸せになって
頂かなくては。      



「やぁ、鬼灯君…って相変わ
らず君ら仲いいね」    

閻魔大王の前、報告をと繋い
だ手を離そうとする貴女を制
して私は目を閉じた。   

今更覚悟など必要ない。  
これは粛然たる宣言だ。  

「結婚しましたので報告に参
りました」        
「………は?」      

しっかり5秒空いて間抜けた
返事が返ってきた。    
隣には言葉も出ずに固まった
ままの無自覚の花嫁。   

「ああ、宴と託つけてサボら
れては困るので式は済ませて
ます」          
「ちょっ、鬼灯君…?」  
「あと新婚旅行ということで
二人だけで過ごしたいので三
徹くらいしろ」      
「“しろ”っ?!」     

パニクった大王を無視して貴
女に向き直る。      
びくりと震えた肩を抱いて、
これだけはしっかり伝えなけ
れば。          

永遠を約束する、事実と確証
を。           

「貴女を、幸せにしますよ」








鳴神月の花嫁

(ちょっ、鬼灯様…っ?!)
(ダメですよ、大人しくしてないと)
(皆見てますって!)
(口付けくらい減るもんじゃないでしょう)







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