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□夜の街。
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人には不幸に耐えうる器がある。
その器が大きければ大きい程大事を成すが、不幸の大きさも比例する。

なんて、そんな言葉を何かで聞いた。
理不尽じゃないか。
僕はもっと、大きな人間になりたかった。世界中に名を知られるような、大きな人間になりたかった。
大きな器が欲しかった。
どんなに大きな不幸だろうが、乗り越えてやる自信もある。
けど、ここでこんな小さな事にもがく僕は、きっとちっぽけな人間だ。

きっと、そうだ。
いや、必ずそうであると、
彼女に逢って、僕は知った。


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室内に風が通り抜ける。月光のみが部屋を薄く照らし出した。
統一された真白な壁に、特有の匂い。
人間だれしもが一度は必ず訪れたことはあるであろう赤の十字架の建物の一室に、特異な点が、一つ。
今は確か、申の刻か。日暮れの早いこの時期、外は冷たい風が吹き、都会ならではの人工光が暗い空を照らし始めているだろう。
夜に差し掛かるこの時間は、魔の時と呼ばれ、闇に住まうもの達が暗躍し始める。
そして、昼時の明るい時を過ごす者達が、一家団欒、食卓を囲む準備を始める時でもあるだろう。
然し無機質なこの部屋に、刻は無い。否−−−刻を知らせるモノがない。もっと正確に言えば、

刻が永遠と変化しない。

この部屋に朝は来ない。
この部屋が刻むとしたら、それは夜よ刻だけだ。
ずっと、ずっと暗いーーー。
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