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□夜の街。
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月島直戯は、夜の街を歩いていた。
先程訪れた病院の病室が、蛻の殻であったからだ。
主のいないその部屋は閑散としていた。
部屋に一つだけあるベッドは整えられ、その上に何の変哲のないただの紙が1枚乗っていた。
その紙には住所と、「ごめんね?」と可愛らしく小首を傾げる猫の絵がついていた。

直戯はその紙をグシャッと丸めると、もう用はないとばかりに立ち上がり、音を立てて乱雑に扉を閉め、看護師の目を気にしないまま出て行った。

直戯は整った顔をしている。
だがそれは傍目からは分かりにくい。それは夜のせいでもあるのだが、薄っすらと茶色いショートカットの髪に漆黒の大き目な瞳。
加えて身長の低さと、本人自身目立つのを嫌うのか、ブラウンのジーンズにワイシャツ、ピンクに白と黒のチェック柄のついた少し洒落たパーカーという、いかにも普通な格好をしている為、煌びやかな夜の街では目立たない。
どちらかと言えば女にも見える服装だが、これが彼の私服の大半である。
目が大きく顔が小ぶりなせいか、道行く女性に声をかける低俗な男どもに絡まれることもあるが、今日はそれも無い。
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