緋弾のアリア最高の相棒 ―THE BEST PARTNER―

□第8弾
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その名をアリアに呼ばれると、小夜鳴先生は、ガチャン。

手にしていた大型スタンガン――おそらく猛獣用の――を、足元に捨てた。

そして一瞬のためらいもなく胸元から拳銃を出し、倒れた理子の後頭部を狙う。

その腕には、ギプスも包帯も無い。

治った……というよりは、そもそも怪我なんてしてなかったという感じだな。


「遠山君、神崎さん。ちょっとの間動かないでくださいね……あれ?何故桂木君がここにいるのですか?」


「んん、うん。ふふっお久しぶりです。小夜鳴さん」

……と、オレは翠の時の声で答ええてやった。


「……まさか君が翠さんだったとは……確かに苗字が一緒だったので何となく同じ血縁関係だとは思っていましたがそう言う事でしたか……」


「はい、そうですよ」

だが訳が分からない。
いや、最初から小夜鳴先生は敵だったと考えるべきだろう。
なんせ、ブラドと知り合いなのだから。
じゃりと、足を動かした瞬間


「おっと3人とも動かないでくださいね」


「う………」

足を止めざる得ない。
小夜鳴は倒れた理子の後頭部をなんのためらいもなく狙う。
あの小夜鳴の銃……
クジール・モデル74。
社会主義時代のルーマニアで生産されていたオートマチック拳銃……
ん?
小夜鳴の後ろから2匹の銀狼が現れる。レキが従えたやつと同種か……確か、コーカサスハクギンオオカミ……だったような。


「前には出ない方がいいですよ。今より少しでも私に近づくと襲うように仕込んでありますんで」

だが、距離がありすぎて一手が打てない。不可視の弾丸……いや、あれは無理だ予備動作で気づかれてしまう。


「桂木くん。あなたは、そこのお二人の学芸会よりは演技はうまかったようですね。それがあなたの本性ですか?」


「そうかもしれませんね」

女性モードで微笑んだ。

そうこうしているうちに、銀狼が理子の拳銃やナイフをテキパキとビルの縁まで運んでは眼下に捨ててしまった。


「動かないで下さいね。この銃は30年前に造られた粗悪品でしてトリガーが甘いんです。つい、リュパン4世を射殺さてしまったら勿体ないですからねぇ」

ブラドから聞いたのか……リュパン4世と本名を知る人間は少ない。
なるほどな……潜入の前にばれてたのか……どうりで警備が厳重だったわけだ。


「どういうこと?なんでんたが、リュパンの名前を知ってるのよ!まさか……まさか、あんたがブラドだったの?」


「それは違うぞアリア、そいつはブラドじゃない」

小夜鳴=ブラドという説をオレは否定する。


「彼は間もなくここに来ます。狼たちもそれを感じて昂ってますよ」


「それにしても、そのブラドから理子のことも聞いて、銃も狼も借りて、そのくせ会ったことがないだなんて半月前はよくも騙してくれたわね」


「騙したワケではないんです。私とブラドは会えない運命にあるんですよ」


「あの時あんた、ブラドはとても遠くにいるなんて言ってたけど……あのあと、コッソリ呼んで立ってわけね。あたしたちを泳がしてたのは一人じゃ勝てないからブラドの帰還を待ってたんでしょ?」

なんとか……理子さえ助けられれば……
小夜鳴の戦闘力はたいしたことはない。
人質さえいなければ銀狼がいても勝てる。
だが、ブラドがくれば人質と合わせてキンジ達がいても不利だ。
特攻をかける手もあるが……
オレは銃を頭につきつけらる倒れた理子を見て歯をくいしばる。
必ず……助ける!


「遠山くん。ここで君に一つ補講をしましょう」

ん?何だ?


「補講?」


「君がこのリュパン4世と不純な遊びに耽っていて追試になったテストの補講ですよ」

アリアがキンジを睨み付ける。
おいおいキンジ……お前はそんなことまでしてたのか、だがその補講がなんだ?


「遺伝子とは気まぐれなものです。父と母、それぞれの長所が遺伝すれば有能な子、それぞれの短所が遺伝すれば無能な子になります。そして……このリュパン4世は、その遺伝の失敗ケースのサンプルと言えます」

そこまで言うと、小夜鳴は倒れたままの理子の頭を蹴った。
まるで、ゴミ袋を蹴るような無慈悲さで。


「やめろ!」

ぐっと足に力をいれかけるが動くに動けない。
オレが動くより確実にトリガーを引く動作が早いからだ。
動けないことを知ってか小夜鳴が続ける。


「10前、私はブラドに依頼されてリュパン4世のDNAを調べた事があります」


「お、お前だったのか……ブラドに下らないことを……ふ、吹き込んだのは……」

足元で理子がもがきながら男喋りでうめく


「リュパン家の血を引きながらこの子には」


「い……言、う、な……!お、オルメスたちには……関係……な……い!」


「優秀な能力が、全く遺伝していなかったのです。遺伝学的にこの子は無能な存在だったんですよ。極めて希なことですが、そういうケースもあり得るのも遺伝です」

言われてた理子はオレ達から顔を背けるように地面に額を押し付けた。

本当に聞かれたくない相手にそのことを聞かれた絶望的な表情


「ふざけるなよ、小夜鳴……」

怒りで声が震える。
沸き上がるのは殺戮衝動。
目の前のヤツを殺したいという純粋な破壊、殺人衝動。
だがオレはその殺戮衝動を押し留めつつ冷淡になってゆく。


「自分の無能さは自分が一番よく知ってるでしょう、4世さん?私はそれを科学的に証明したに過ぎません。あなたには初代リュパンのように一人で何かを盗むことができない。先代のように精鋭を率いたつもりでも……ほら、この通りです。無能とは悲しいですね。ねえ4世さん」

無能、4世という言葉を繰り返す小夜鳴の足元で理子は涙を溢していた。
喉の奥から絞り出すように泣いている。
小夜鳴は手元からキンジがすり替えたニセモノの十字架を取り出した。


「教育してあげましょう4世さん。人間は遺伝子で決まる。優秀な遺伝子を持たない人間はいくら努力を積んでもすぐ限界を迎えるのです。今のあなたのようにね」

小夜鳴はその場に屈み、身動きが取れない理子の胸元から引きちぎるように青い十字架を奪いとった。
そして、ニセモノの十字架を痺れのせいで何の抵抗もできずにいる理子の口に押し込む。


「う! んん!」

理子が悲鳴をあげてのぞけるが小夜鳴は楽しそうに笑いながら


「あなたにはそのガラクタがお似合いでしょう。あなた自身がガラクタなんですからね。ほら。しっかり口に含んでおきなさい。昔、そうしていたんでしょう?」

背を伸ばした小夜鳴が、ガスッと理子の頭を踏みつける。


「うう!」

理子の悲鳴
怒り、激怒。
自身でもわかる。
オレが小夜鳴に向けているのは殺意だ。


「い、いい加減にしなさいよ!理子をいじめて何の意味があるの!」

耐えかねたアリアが叫ぶ。
オレと同じく怒っているのだ。


「絶望が必要なんです。彼を呼ぶにはね。彼は絶望の詩を聴いてやってくる。この十字架も、わざわざ本物を盗ませたのはこうやってこの小娘を一度喜ばせてから、より深い絶望にたたき落とすためでしてね。おかげで……いいカンジになりましたよ。遠山くん。よく見ておいてくださいよ?私は人に見られている方が掛かりがいいものでしてね」

なんだ?何か小夜鳴の感じが変わっていく。


「ウソ……だろ……?」

キンジが絶句している。
まさか…………


「そうです、遠山くん。これはヒステリア・サヴァン・シンドローム」

やはりか……
キンジ達の家系以外にも持ってるやつがいたとはな


「ヒステリア……サヴァン?」

アリアが眉を寄せているがキンジもオレも何も言わない。


「遠山君。桂木君。神崎さん。しばし、お別れの時間です。これで彼を呼べる。ですがその前にイ・ウーについて講義してあげましょう。この4世かジャンヌに聞いているでしょう。イ・ウーは能力を教え合う場所だと。しかしながらそれは彼女たちのように低い階梯の者達による、おままごとです。現代のイ・ウーにはブラドと私が革命を起こしたこのヒステリア・サヴァン・シンドロームのように能力を写す業をもたらしたのです」


「聞いたことがあるわ。イ・ウーのやつらは何か新しい方法で人の能力をコピーしてる」

アリアの指摘に小夜鳴は首を小さく振る


「方法自体は新しいものではありません。ブラドは600年も前から交配ではない方法で他者の遺伝子を写し取って進化させてきたのです……つまり、吸血で。その能力を人工化し、誰からも写し取れるようにしたのが私です。君たち高校生には難しいかもしれないので省略しますが優れた遺伝子を集めることも私の仕事になりました。先日も武偵高で遺伝子を集める予定でしたが遠山くんたちが除いていたおかけで失敗してしまいました。狼に不審な監視者がいれば襲うように教えたのがあだになりました。特にレキさんの遺伝子は惜しかった」

なるほどな……あれにはそんな理由が……
アリアがぎりと歯ぎしりした


「ブラド。ルーマニア。吸血……そう、そういうことだったのね。どうして気づかなかったのかしら。キンジ。シュウ。ナンバー2の正体読めたわドラキュラ伯爵よ」


「ドラキュラ?それは架空のモンスターの名前じゃなかったのか?」

キンジが言う


「違うわドラキュラ・ブラドは、ワラキア今で言うルーマニアに実在した人物の名前よ。ブカレスト武偵高で聞いたことあるの。今も生きてる、って怪談話つきでね」


「正解です。よくご存じでしたね。三人ともまもなくそのブラド公に拝謁できるんですよ。楽しみでしょう?」


「でたらめだ!そもそも兄さんの力をコピーしたのならどうして理子を苦しめられる」

ヒステリアモードは女性を守るものだ確かにおかしい


「いい質問ですね。講師は生徒の質問に答えるのが仕事です。順を追って説明しましょう……むかーしむかし……」

どこまでもふざけやがって……


「この世には吸血で自分の遺伝子を上書きして進化する生物吸血鬼がいましあ。無計画だったらほとんどの吸血鬼は滅びましたが、人間の血を偏食していた一体ブラドは人間の知性を得て、計画的に多様な生物の吸血を行い強固な個体となって存在しました。しかし、ブラドは知性を保つために人間の吸血を継続する必要学生ありました。結果、ブラドには人間の遺伝子が上書きしてされ続けブラドはとうとう私と言う人間の殻に隠されることになりました」

ま、まさか………


「隠されたブラドは私が激しく興奮したとき、つまり私の脳に神経伝達物質が大量分泌された時に出現するようになっていきました。しかし永い時が流れるうち私はあらゆる刺激になれ激しくは興奮できなくなってしまったのです」


「なるほどな。それでキンジの姉さんのヒステリアか?」

にい、と笑った小夜鳴は踏みつけていた理子の頭をもうひとけりした。


「…………」

理子の口からニセモノの十字架が地面に落ちる。










「さあ かれ が きたぞ」







圧倒的な存在感がその場に現れようとしている。
この感覚は覚えがある。
化物が殺意を持って現れる前兆……だが、関係ない。
必ず勝つ……それだけだ。










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