短編とか

□時はときに、孤独さえも蝕む【三家 グロ・R-15】
6ページ/8ページ


解っていた。

あいつが、とっくに死んでいた事くらい。





あの戦いの日に、私は家康を殺した。

確かに、殺したのだ。


そして、悟った。



こいつは私の大切なヒトだったのだ、と。

其れを、自ら手にかけたのだ、と。





その過ちを認めたくなくて、己に虚言を吐いた。
記憶を塗り替えた。


替えても替えても服を汚していたのは、滲んだ古血。

そもそも死んでいたのだ、動けないことなんて当たり前だ。

口なんて利ける訳が無い、会話さえ全て妄想だった。



家康の身体にも、私の精神にも、限界が来ていたのだった。



(嫌…嫌だ………)
共に死ねたら、幸せだったのだろうか。
今からでも、遅くはないだろうか。

そっと、刀を腹に宛てがった。

(死のう…死んでしまえば……)



「__………!」

その時、私は思い出した。


死に逝く刹那。
あいつの口の端から、血と共に零れた言の葉。

この世で一番嫌いなヒトから、この世で一番聴きたかった台詞。

本当の気持ち。



「あいして いた」
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ