ご都合ストーリー

□帰ってこねぇな
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(…帰ってこねぇな…)

シュッ…シュッ…と鋼を磨く手を休めて、チラと部屋の扉へ視線を移す。
○○とケンカして半日以上が経っていた。
船員それぞれが、それぞれ個人の時間を過ごす、貴重な時間。
自分の場合、いつもならもう布団を蹴飛ばして眠っている筈の時間だが、今夜はとても寝る気になれなかった。


事の発端は、
(大したこと、無かったんだけどな…)
そう、大したことでは無かったのだ。
だが、その後がいけなかった。
軽くジャブの応酬のように叩いてた軽口が、いつの間にか言い合いになって、

「もう、知らないッ!!」

○○はそう言ったきり、口を利いてくれなかった。
否。
言葉は交わしている。
それこそ、何のわだかまりも無いかのように「当たり障りの無い日常の最低限のやり取り」だけは。

(どう考えたって、不自然だろ。)

周囲の様々な含みのある視線を一身に受けながら、彼は口を尖らせたが、○○は「そんな様子は見えてない」とばかりに応対を続けたのだ。
始めは突っかかっていたが、全部、それこそそよとも風が吹いていないかのように流され、
「可愛く無えなッ!」
それが、自分の感情を乗せた最後の言葉だった。
あとは、無視。
ただひたすらに、無視。
厨房へ顔を出しても、
「ナギ兄! 水くれ!」。
うっかりぶつかった時も、慌てて身体を支えてやりはしたものの、一言だって
声はかけなかった。

(だってよ…オレだって…)

一日中、食事の時間以外は、別行動。
自分は甲板掃除やら船荷の点検やら鍛錬やら、いつも通り過ごし。
○○は…
○○は、選りに選って、

(だからって、なんでナギ兄…)

一日中、敬愛する大先輩の元に居たのだ。

(きっと今も、ナギ兄と一緒なんだろな…ナギ兄いつも遅くまで仕込みとかしてっし…)

嫉妬と寂しさと羨ましさと、なんだか訳のわからないゴチャゴチャと入り混じった思いを抱えて、磨かれた鋼に映る自分の顔を見る。

(…なんてカオだよ、カッコわりぃ…)

知らず ふっ と溜め息を落とすと、自分の顔が曇った。

(ちゃんと、寝ちまう前に謝っときたかったんだけどな…)

ぐううぅぅぅ〜

「………。」

(なんか、食いモン貰ってくるかな…)

正確には磨き終わっていた、愛用の鋼を二刀 腰に差すと、食堂に向かった。

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