ご都合ストーリー

□それは、ふたりの…
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樽から出て、何日が経っただろう。

(この海の向こうは、ヤマト…)

知らず ふっ と溜め息が漏れた。

“いけない、落ち込んでなんて。”

いつもは そう思い直すところだけど。

今だけ。ちょっとだけ。

そう 誰に ともなく甘えて、遥か水平線の そのまた向こうを、想う。

「もう 今は見えませんけど、この方角の海を行った一番最初に着くのがヤマトなんですよ」

見習い剣士 と聞いた最年少のトワくんが、朝食を済ませた私に教えてくれた。

甲板の片隅、壁や樽で少し死角のようになっているそこに独り佇んで、思いもかけず遠く離れることになってしまった故郷を想う。

「…ごめんなさい…」

(ごめんなさい、マスター。ごめんなさい、母さん、皆んな…。)

吸いこんだ潮風で、鼻の奥が痛い。

と。

「なーにが ゴメンナサイ なんだ?」

意地悪そうな声とともに、不意に視界に飛び込んだ イエローゴールド。

ヒスイ色の2つの宝玉が、私を覗きこんだ。

「…なーに シケたツラしてんだよっ。」

間髪入れず 額をこづかれる。

「あ、ハヤテさん…」

「あ、じゃねェよ! オレの手伝いサボって、こんなとこで何やってんだよ。」

「え、あ、すみませんっ!」

「すみません、じゃねェよ! ったく…」

ぐらっ

「きゃっ…」

「お…っと! シン! てめェ もっとマシに船動かせねーのかよ!?」

ぐらついた樽ごと私を支えて、ハヤテさんが階上の操舵室に声を投げ上げる。

「うるさい! このくらいの揺れにも応じられねえんなら、船を下りろよ ハヤテ!」

「オレじゃねーよ! 今は チョー初心者が乗ってんだろが!」

「仕方ねェだろ、大潮目なんだから! 危ねーと思うんなら、お前がしっかり面倒見とけ!」

「なんでオレがっ!?」

バッ とこちらを振り向いたハヤテさんの顔が険しくて、思わず後退る。…といっても樽の上だけど。

「……」

ふ、とハヤテさんが表情を少し緩めると、溜め息をついた。

「悪ィ…。この辺 暫く波が荒れそうだからサ、お前もあっちに… って、何 泣きそうなツラしてんだよ?!」

「あ…」

一瞬 おののいたように 仰け反るハヤテさん。

慌てて目元を両手で隠して俯く。

「……」

ふっと近づく気配。

と 両手首をつかまれた。

「え…」

顔を上げると、驚くほど近くにハヤテさんの顔があった。

「お前…」

(なんて綺麗な瞳…)

どこまでも透き通った ヒスイの青緑。

私が今まで見た どんな物よりも綺麗で。

「…」

思わず 見惚れた。

「○○…」

自分の名を呼ぶかすれた声にさえ うっとりする…

「…」

「…」

ふ、と唇に柔らかな温かさを感じて。

「!」

「! んなっ!? 何しやがるんだよッ!?」

驚くより先に 投げつけられた言葉。ハヤテさんの顔は 真っ赤で…。

「い、今…」

「事故だ 事故! 何かのマチガイだっ!!」

泡を食う、ってこんな感じなのかな?

大慌てのハヤテさんを茫然と見やる。

「あーもう! さっさとお前が来ねーのが悪いんだ! とっとと来いよっ!!」

ドカドカと騒がしくも遠ざかる、広い背中。

(そういえば、揺れた時のお礼、まだ言ってなかったな…)

「…ありがとう、ございます…」

呟くと

「ほう… 不意打ちのキスに礼とは。なかなかやるな、ハヤテのヤツ。」

「ひゃっ!?」

酒瓶片手に ニヤニヤと笑う海賊王が、そこにいた。

「な… な…」

「ん? 何だ、○○。もう部屋替え希望かぁ?」

「ち、ちがいます!」

「はははっ、遠慮はするなよー」

「船長―っ、ちーがーいーまーすーーっ!」

ひらひらと手を振られ。

「○○―っ! おせーぞっ!」

甲板に ハヤテさんの声が、響く。

(皆んな。私、元気だから!)

水平線の向こうに 視線を投げ。

「早くしろよー!」

「はいっ!!」

私は ハヤテさんの元へと駆けだしたのだった。





それは、ふたりの ファースト・キス。


<FIN>




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