ご都合ストーリー

□「ん。いいよ、いつでも」
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元ネタとなる絵があります。
敬愛するRAIRAさん(月と星の輝き)の描かれたネロくん絵(キスまち(あげ直し))をアメブロで見て、どうしようもなく書きたくなったお話になります。
ぜひ、ご一読前に、素敵なネロくんをご覧いただけたらと思います。
RAIRAさん、本当にありがとうございます。


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「〜♪〜♪」
楽しげな鼻歌と 軽快な足音が 聞こえてきた。
ここは厨房。今は真夜中。
明日の仕込みをしていたけれど、ナギは食材を取りに倉庫へ行ってしまった。
「〜♪♪」
近づいてくる。
(…どうしよう。)
あたしは困惑した。
この足音は、この声は、あたしにも聞き分けられる。
だって、ずっと、シリウスには無かったものだから。
だから…
「ナーギ兄! なんか ちょーだ…い… あれ?」
ああ、やっぱり。
「○○ちゃんだー。いつもこんな遅くまでナギ兄の手伝いしてんの?」
「うん…ネロくんこそ、どうしたの?」
「小腹が減ってさー。何か無ぇかなーって。ナギ兄は?」
「ナギは倉庫に…」
「そっかー」
赤い牙の頭領で、ナギの実の弟の、ネロ。
初めて会ったのはついこの間のことなのに、人懐っこい彼はあっという間にシリウスに融け込んで、いつの間にかあたしは、「くん」付けと タメ口を 強要されていた。
彼曰く「ナギ兄だけ タメ口で呼び捨てなんて、ズリィ!」。
(…ハヤテさんだって、まだムリなのに…)
こんな押しの強いタイプは初めてで(リュウガ船長のは酒場の酔っ払いの絡みだし、ロイ船長のは…あれも押しなんだろうか??)、嫌いじゃないんだけど、苦手というか、どう接したら良いかまだよく判らないでいる。
「じゃあさ!」
ガタン と椅子の音で我に返った。
「○○ちゃんが 何か作ってよ!」
「何かって」
「何でもいいよー、○○ちゃんが作ってくれるなら!何が得意なの?」
椅子に逆に座って 背もたれに腕とアゴを載せて、ネロくんはニコニコと見上げてくる。
「う…ごめん、ナギにダメって言われてるから…」
「えー、何が?」
「勝手に食材使うな、って」
「ナギ兄ってば、ケチだなー。うん、俺が謝るから、何か作ってよ!」
「でも……それに」
「それに?」
「ナギが、あたしの作る物はまだ他人に出せるレベルじゃないから、許可するまではダメって。」
「許可ぁ?」
「うん。ナギが食べて、OKだったら、皆に出していいって。」
「ふぅん… で、今まで許可になったのは?」
「う゛…。それが まだ…」
「うっわー…ナギ兄ってば…。」
「うん、さすが なかなか厳しいよね。」
「さすが、っつーかさー…」
溜め息まじりに苦笑すると、ネロくんが肘をついて考え込んだ。
そして、瞳をキラリと光らせると、とんでもないことを言い放った。
「じゃあさ、代わりにキスしてよ!」
「ええっ?!」
(何また突然言い出すの?!こんなからかわれ方…どう切り返せばいいの?!)
あたふたしている間に、彼は言葉を重ねる。
「俺、今 飢えてんだよねー。このままじゃ眠れねぇもん。キスでいいからさー。おやすみ のキス♪」
そして ちょっとアゴを上げて目を瞑った。
「ん。いいよ、いつでも」
(どうしよう、どうすればいいの、こんな時!!)
ぐるぐるとしながら、ついその顔をまじまじと見てしまう。
(わ…睫毛長い…というか、やっぱり兄弟なんだなぁ、アゴのラインとか額の形とか、ナギの寝顔に似てる…)
――と。
ピクッ とネロくんの眉が動いた。
と思った途端。
ヒュッ!
「いてっ!」
あたしの目の前に 見慣れた背中が映り、
「お前はメシ抜きだ。」
不機嫌な声が降りてきた。
「ナギ…!」
「ってー…」
ナギの手刀を頭に受けてネロくんが呻く。
「さっさと寝ろ!」
「えー。ナギ兄ばっか ○○ちゃんの作るの食って、ズリーし!」
「!! うるせーな、昼も抜きにするぞ」
「うわっ、職権濫用、反対!」
慌てて厨房の扉へ向かいながら、ネロくんは振り返った。
「いーもんね! それなら ○○ちゃんのメシのこと、皆に言いふらしちゃうもんねー♪」
「おまっ!?」
「おやすみー、○○ちゃん♪ また明日の朝食でね♪」
ちゅっ、と 投げキッスをウインク付きで。
兄弟ゲンカというかじゃれ合う二人をハラハラ見ていたあたしは、あっけにとられた。
(なんて言うか…ネロくんの方が実はウワテ?!)
「ちっ…」
舌打ちに見上げると、眉根を寄せるナギと視線がぶつかる。
「…ふふっ」
物言いたげで でも言葉の出ないナギの様子に、思わず笑みがこぼれる。
「笑ってんじゃねーよ。」
そのまま ふいっ とナギは背を向けると告げた。
「さっさと仕込み終わらせるぞ。大飯食らいが1人増えてんだからな。」
「あ、やっぱりネロくんの分も?」
「仕方ねーだろ」
ぶっきらぼうに答えるナギの、耳が赤い。
「ふふっ」
「笑ってんじゃねえって言ってんだろ。」
「だって」
「だってじゃねえよ。黙ってやれ。」
「はーい」
無愛想なナギの愛情深さは、見ていて愛しい。
大好きだったネロくんが血の繋がった弟だと知って、どんなに嬉しかっただろう。
(…本当に、良かったね、ナギ)
黙って鍋をかき回す大きな背中に、心の中で声をかけて。
あたしは 野菜の皮むきを再開したのだった。


<FIN>




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