ご都合ストーリー

□見えない夜空
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「○○…別れよう」

そう告げた瞬間、お前は目を見開き、表情を歪めた。
胸の奥を斬られたような、悲鳴さえ上げられないような痛みを覚えながら、オレはお前をじっと見つめる。
見上げる瞳の奥に有る、哀しみと、そして安堵を。

「なん、で…」

掠れた声を紡ぎだすその震える唇を、ただ甘い気持ちで貪っていたのは、ついこの前のことなのに。
なんで、と聞きたいのは、オレの方だ。

どうして、気づいちまったんだろう。
お前の心が、オレから、離れだしたことに。

ひとつひとつの、お前の仕種や、言葉や、視線に、混じる違和感を。
もしかしたら、気づかないままだったら、
ずっとオレは、ただお前を甘い気持ちで抱きしめていられたかも知れないのに。

「理由なんて、ねーよ」

それでも、お前を責めるなんて、出来なくて。
だけどもう、お前の心をオレだけのものには、戻せなくて。

「オレ、別の部屋で寝さしてもらうから。お前はまだオレの部屋使ってろ」

もっとずっと、最後の瞬間まで、お前の傍に居たい。
けど、もう一緒には居られない。

「ハヤテ…」

お前が呼ぶオレの名前、いつまでこの耳で聞けるんだろうな。

「悪ィな。けど、もうオレ決めたから」

お前の心がオレの側に無いことを、これ以上感じたくない。

ああ、そうか。
以前のお前なら、間髪入れず、
「勝手に決めないでよ!」
こんな時には必ず言ってたよな。

違和感が積み重なる。
胸が苦しい。

「じゃ。カゼ引かねーうちに部屋戻れよ。おやすみ」

有無を言わさず、船室に行けと促す。

その場に留まって欲しい、と自分の言葉とは裏腹に、願うオレが居る。

「………………うん」

だけどお前は、俯いて、オレの願いをそっと砕いた。


オレは頭上を見上げる。
今日はあいにくの曇り空。
雄々しく光る狩人も牛も、オレ達と同じ名の星も、見えない。

視線を戻せば、もう、お前の姿も見えず。

…波と風の音に溜め息を誤魔化して、オレはまた見張りを続けた。


<FIN>




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