シンさんの飼い犬

□キケン?!
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「〜♪〜〜♪♪」

(……)
鼻歌とともに聞こえてくる弾むような足音に、腰を上げた。
この足音の持ち主は、ちょっとキケン人物だ。
時々この船にやってくるフラフラとした定まらない歩き方をするヘンな人物よりは、まだ安全だけど、油断をするとすぐ抱き上げられてしまう。
キョロキョロと辺りを見回しテーブルと椅子の狭い隙間に潜り込むのと、その人物が食堂に入ってくるのとが、同時だった。

「ナッギ兄〜♪ また来たぜ〜♪」

この船の一番賑やかな人物がご飯時に上げる声と同じ響きで、厨房にいるはずの人の名を呼ぶと、大股で目の前を横切っていく。
バタン!
「ナギ兄!……あれっ?」
急に声のトーンが落ちた。
それはそうだろう。彼の人は今、船を下りて買い物に行っているはずだ。
だから自分は、バカ猿(とあの人は言う)たちから厨房の食べ物を守る為、ここで番を仰せつかっていたのだから。
(……)
でも、この人物は苦手だ。
この船の主と同じくらい、本気と冗談の聞き分けがし難い。
初め、「おいで」の優しい声にうっかりとそばへ寄ったら、
「うっわー、かっわいい!! …ねぇ、いつも船の上なんて可哀想じゃん?! 俺、連れて帰ってあげる〜♪」
なんて、連れ去られそうになったのだ。
まぁ、その時はすぐ、あの人が助けてくれたけど…。
(……)
うっとりと、その時のあの人の表情や声音を思い出す。
『ネロ…今ここで短い一生を終えたくなければ、すぐにミントを下ろせ。』
なかなか本気にならないあの人が、あの時は結構、本気モードだった。
自分を抱き上げている人物を睨んでいるのに、その顔を見てゾクッと身体に震えが走ったのを、まだ鮮明に覚えている。
「見―つけたっ♪」
「!」
しまった!
と思った時には遅かった。
つい大好きなあの人を思い出して、油断してしまっていた。
ひょいっと抱き上げられ、ジタバタもがこうにも、手足の動きを躱されてしまう。
「ダメじゃーん、こんなとこに隠れてちゃ。」
唸ろうかとも思ったけど、でも、根本的に悪い人では無いことを知ってるから、躊躇った。
その隙に、ぐっと顔を近づけられる。
「相変わらずカワイイね〜、ミントちゃん♪」
鼻と鼻が触れそうになる。
「こんにちは♪」
瞬間、
「キャンキャンキャンっっ!!!」
悲鳴を上げた。

「…っつー…。も〜、ミントちゃんてば、そんな大声で鳴かなくてもイイじゃんかー。」
「ウウ〜…」
「取って食ったり、しないってばー。」
ウソだっ!
ゼッタイ、この人、やるもん!!
今だって、今だって…!!
「ウウウ〜…」
警戒と恨みを込めて、睨み上げる。
危なかった。
ほんっとーに、危なかった。
もうちょっとで、
「キスぐらいイイじゃんかー。」
ヤダもんっ!!
それは、シンさん限定なんだもんっ!!
軽く叱るように見下ろされ、負けじと見返す。
「ケチだなぁー。」
「ウウ〜…」
全身全霊で警戒する。

と、
「ネロ…貴様、まだ懲りないか…。」
「キャゥンっ!!」
助けて!と叫び、必死になって身を捩る。
来てくれた! 気付いてくれた! シンさん、シンさん、シンさん!!
「あ〜あ、時間切れかぁー。」
床へ落ちそうになる瞬間、そう溜め息を吐いてネロは私をそっと下ろした。
床に足が付いた途端、必死になって自分の居るべき場所へと駆ける。
「なんだよー、傷つくなぁ、もう。」
頼もしくもすらりとカッコイイその足元から振り向くと、不機嫌全開で睨むシンさんなど眼中に無いかのように見つめられた。
「最初から、お前に権利など無い。」
私が後退ると同時に、すっと半歩シンさんが前へ出る。
「ナギなら、市場へ買い出しだ。出直してこい。」
「え〜っ、ミントちゃんと遊んで待ってたって」
「許さん。」
ネロの姿と同時に、その甘えたような声を容赦なく遮ると、
「!」
「来い。」
ひょいと抱き上げられた。

「このバカが。お前には学習能力が無いのか!」
「キュウ〜ン…」
ごめんなさい、でも、だって…!
「言い訳は要らん。」
「…」
許して欲しい、と一生懸命目で訴える。
じっ…としばらく睨まれたが、ふと目を逸らされた。
「まったく…」
溜め息。
「シンさんてー、なんだかんだと、甘いよねー。」
「貴様…」
「とりあえず、退散しまーす♪ ミントちゃん、また後でねー♪」
「来るな。」
「ええーっ、冗談! ミントちゃん、お土産持ってくるからね〜♪」
「!」
えっ!? お土産っ!?
「反応するな、バカ犬っ。」
「はははっ、素直でカワイイじゃん♪」
頭上から降ってくる叱責と、遠ざかる明るい笑い声。

…あぁ、今夜は、ご馳走が食べられるんだー…。
そんなことを思いつつ。
とりあえずは、目の前の愛しい人のご機嫌を取ることをしなくては。
「…なんだ。シッポをそんなに振っても、ダメだぞ。お前は航海室に軟禁だ。」
「キュウーーーン…」
暫く押し問答を繰り返した結果は、勿論。

「…ったく…やっぱりアイツは危険人物だな…。」
「あんっ♪」

シンさん、大好きっ♪♪


<FIN>




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