月、満ち欠けの空

□第七話
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出立前に渡す薬を二種類、それぞれ二つづつ用意した。一つが外に塗る薬(きり傷・すり傷+血止め)、もう一つが内に塗る薬(口内のきり傷)に効く薬を併せ貝の中にたっぷりと入れ、あとは薬に関しての説明を書いた紙を巾着の中に。






*****






それだけを用意する為に随分と時間が経っただろうか?部屋の縁側の襖を開ければ、月が少し傾いていた。

隣の部屋を見る。

灯りは消えていて物静かなのを確認してから左目に合った包帯をスルリスルリと解いていくと、パサリと全ての包帯が解かれ、普段日中は包帯が捲かれている場所に夜風が撫で涼しいと目を閉じる。



ーああ……涼しい



瞳を開けて今度は両の目で月を見上げる。

見上げた月はキラキラと綺麗な満月で、余りにも綺麗で瞳から雫が零れ落ち、そして暖かいものに包まれた。


「……桜?」
『…こじゅ…様』
「まだ梅雨前で風が冷てぇし、風邪ひくだろうが…」


暖かいものに包まれたのは、小十郎の羽織だった。そう、戦場で着るあの半月が描かれた茶色の陣羽織。小十郎の身長の半分しかない私には大き過ぎて簡単にすっぽりと覆われている。


「どうした…、」
『え?』
「…気づいてねぇのか?」


そう言って私を抱え込むように座り、目元を指で拭った。その小十郎の行動で自分が泣いていた事に気づくと同時に包帯を解いた方の瞳を閉じた。


『…あまりにも月が綺麗だったから…』
「月、か…」
『ええ…今夜の月は特に…』
「…そうか…」

それと小十郎の温もりが暖かくて懐かしい…まるであの頃のように父に母に包まれて居るような感覚で。

暫くの間、互いに闇夜に浮かぶ綺麗な月を見ていた。






[執筆:2013/07/13]

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