月、満ち欠けの空
□第八話
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朝餉を済まし、小十郎が帰る翌朝。
私は外に繋げてあった彼の馬を村の入口まで連れて行く。
『はい、道中お気をつけ下さい』
小さい持ち運びに便利な巾着袋に傷に良く効く練り薬を入れ、帰る道中に食す握り飯とお茶を淹れた竹水筒を持たせた。
「桜、何から何まですまねぇな」
『いえ、助けるのは当たり前ですから』
小十郎は礼を言いそれらを受け取り、馬を撫でる。
「(ほぅ…馬の世話まで完璧か)…桜」
『何でしょう?』
「…俺と一緒に来ないか?」
『ぇ…』
誘われてしまいました。
しかも、腰に手を回し引き寄せ耳元でボソリと囁かれて、小十郎は無駄に良い声なので腰には来たが、
『…私は行けません…ごめんなさい…』
「(やはりそう来るか…)どうしても、か?」
『ええ、お誘いは嬉しいですが…』
申し訳なさそうに誘いを断ると分かっていたようで瞳を細め私の頬を撫でる。
「仕方ねぇな、だが…」
『?』
ーちゅ…
言葉を途中で切った小十郎は私の唇に軽く口付けした。
『っ!?』
「次は必ず連れて帰る(諦めねぇぜ)」
突然の出来事に瞳をこれでもか!ってぐらい見開く。
そして数秒後、頬には朱が走って顔が熱くなり、小十郎は私の反応に満足したのか、もう一度触れるだけの口付けをして私から離れ馬に跨る。
小十郎は「世話になった、またな」と片手を上げ去って行った。その一連の動作を顔を赤らめたまま小十郎が見えなくなるまで見送った後、私は熱い頬を冷えた掌で隠しながら家へ戻った。
[執筆:2013/07/19]