蒼き竜の伝承歌

□第四話
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竜神の祠が見えた頃、


『小十郎ここで良いわ』
「?まだ距離はありますが‥」
『うん、でも此処から先は結界があるの』
「左様ですか‥」


祠一歩手前で降ろしてもらう。
小十郎が着いて来るのは今回が初めてでも余り驚いてはいないようだった‥しかも神主の息子だからそうした神聖な場所には慣れているのだろうとも解釈した。

結界に近づき左手の甲を前方に翳すとパァッと光を放ち一部分だけ結界が緩く穴が開くので閉じる前に通過する。

通過し終わった後はすぐに穴は閉じ、祠の中へ入る。
入ると祠の中心にはぽっかりと泉があり、何とも神秘的な雰囲気を醸し出していて、その泉の底には鳥居と竜神が眠る祠が鎮座していた。


『小十郎はここで待っていて』
「小雪様は?」
『私は泉の中へ行くわ』
「―‥泉」


ほら‥と指をさし教えれば頷き納得したもよう。

私は石棚に脱いだ着物を置き、脚の爪先からゆっくりと水に浸かっていく。水の冷たさに慣れた頃、あるモノを取りに行く為ザプンと潜り水底の祠へと向かい泳ぐ。

あるモノとは水の宝珠で死した者と会話させるなら必須の道具でこれが無ければ体力と精神力の消耗が激しいだけではなく、一週間寝込む事に成りかねないからだ。

祠に近づき竜の亡骸(頭蓋骨)にある水晶に額を付け、宝珠を借りていくもうを伝えてから台座に鎮座する宝珠に手を触れるとス―‥と体内に溶け消えていく。

そして地上へ戻る為に祠を後にし、水気を手拭いで拭り脱いだ着物をまた着込み小十郎が待つ場所へ戻る。


「!―‥もうよろしいので?」
『ええ(寒いわね)』
「(頬‥冷てぇな)‥小雪様」
『?』


まだ残暑が残り暑い秋口とは言え流石に冷水に浸かるのは体に応えたのか‥かなり寒い。腕をさすっていれば小十郎の掌が頬を包み小十郎の体温が心地いい。

そして何を思ったのか、小十郎は自分が着ている羽織りを脱ぎ私の肩へ掛けてくれそのままスッポリと抱きしめる。


『―‥小十郎、温かい』
「小雪様、屋敷へ戻り七輪を用意します」
『そこまでしなくて平気よ?』
「いえ‥念のため、です」
『そうね‥じゃあお願いするわ』


そう言葉を交わし再び小十郎に抱えられ(どうあっても歩かせたくはないらしい)ぬくぬく状態で屋敷に戻ったのだった。






[執筆:2013/06/26]

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