小説:ボーボボ

□短篇小説置き場3
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お父様はサイバーシティの重役で。
お母様は、真拳使い。

だから生活には困らなかった。
寧ろ、あのサイバーシティの中では、裕福な方だったのかもしれない。

自由にサイバーシティの外に出られたし。
何より、あの心が張り裂けそうになるモニターを見る必要すらない。

それに。
へっくんにだって会える。
本当に幸せだった。

でも、その生活は。
5歳の頃に、ピリオドを打つ。
それは僕が、真拳使いの能力に目覚めたのが理由だった。

真拳使いの才能が開花した事を知ったギガ様が、僕の両親にある命令を出す。
「僕を、差し出せ」…と。

地下牢に僕を幽閉して、処刑人にふさわしい教育をし。
今の電脳6闘騎士の誰かが使えなくなった時に、代わりとして使うというモノだった。

勿論、両親はその命令には反対だった。
僕以外に子供は居なかったし、何より処刑人にはしたくなかったらしい。
「地下牢に幽閉」という言葉が、両親は一番嫌だったと。

今日。
両親は意見を言う為に、ギガステーションへと赴いた。
きっと、ギガ様の機嫌を損ねさせた両親は、処刑されてしまう。
だから、明日から僕は地下牢に幽閉されるんだ。
そんな事は、子供の僕にだって分かり切った事で。

でも、どんな仕打ちをされるのかより。
幽閉される事によって、あの子に会えなくなるのが一番淋しかった。


―へっくん。


そう思った時には、部屋を飛び出していた。
絨毯のひかれた廊下を走り、階段を掛け降り、ホールを横切って家から姿を消す。

ごめんね。
今日はティーセットも、お菓子も持っていけなかった。
君のしょんぼりする顔が浮かんで、胸が締め付けられる。

兎に角会いたい。
最後に一目だけでも、君を見たい。
会話を交わしたい。

会いたい会いたい会いたい―…!




「はぁ…はぁ…」

長い事走った様な気がする。
定期船に乗って、都市から離れ、港からこちらに来た時には、もう息があがっていた。
不思議だよね。
何時もなら、へっくんの方が息があがっているのに。


「――!」

何時もの野原。
今日も青空が広がっていて、白い花が咲き乱れている。

その中に。
見知った人影が佇んでいた。
サラサラの銀色の髪が、風に撫でられて揺れている。

間違いない。
あの子だ。


「―へっくん!」

何時の間にか、その人影に僕は叫んでいた。
人影は、僕の声に気付いたらしく、こちらへと振り返る。
赤い目が、僕を捉えた。


「…しびとくん!」

へっくんは、「今日は遅いね」と笑顔を零す。

なんでかな…?
何時もの笑顔の筈なのに、何故か今日は僕、笑えない。
幸せになれる筈なのに、胸が締め付けられた。

僕は息を整えると、口を開く。
言わなければ。
もう、会えなくなるって。
また、今日みたいに、へっくんが此処へ来ない様に。


「へっくん、僕ね…遠い所へ行くんだ」

「…え?」

「だから、もう会えない」

僕の言葉に、へっくんの表情が、次第に曇っていく。
目は薄い膜を張り、うるんでいる。


「…どうして?どうしてどうして!?」

そう言って、ポカポカと胸を叩かれる。
どうやら僕の言葉を、受けとめられなかったらしい。
叩かれてはいるものの、力を入れていないみたいだから、痛くはない。
でも、胸の奥は痛かった。


「おれ、しびとくんのことスキだよ!ダイスキなのに!なんで会えなくなるの!?」

巻くしたてる様に早口で言い、そして目尻から涙を零す。
僕を叩いていた手は止まり、力なく胸を押している。


…え?
今、なんて言ったの?
僕の事、好き…?


「へっくん、僕の事好きなの…?」

予想打にしなかった言葉に、僕は思わず聞き返してしまう。
へっくんは涙で頬を濡らした顔を僕へと向けてきて。


「…うん」


どくん。

どくん。


高鳴る鼓動。

突き動かされる衝動。



「――!」

気が付いたら。
僕は、へっくんの唇にキスをしていた。
触れるだけの、子供のようなキス。

僕を好きだって事が嬉しくて。
もう会えなくなるのが淋しくて。
衝動は、何時もの僕には出来ない様な事をしてくれた。


思えば、どうして僕は毎日この野原へ来ていたのだろう…?
嗚呼、それは他でも無い。
あの子に…へっくんに会えるからだ。

君が笑顔になると幸せになれたのも。
きっと、へっくんが好きだったからだ。

…どうして。
どうして、もっと早くこの気持ちに気付かなかったのだろう。
こんな、会えなくなる前に気付くなんて。
本当に、本当に。


「僕も、へっくんの事好きだよ」

何時の間にか。
僕の頬にも、涙が伝う。


「スキなら、また会える?」

「…うん」

純粋な君に、精一杯の嘘。
きっと、もう会えないだろうけど。
でも今は、会えないだなんて言えなかった。


「ずっと、好きだからね―」

抱き締めて。
もう一度、キスを落とす。
そうするとへっくんは、安心した様で笑ってくれた。


もし。
生まれ変わるなら。

君に、なりたいな。


何時までも。

無垢なままでいられる。

君に―





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