よろず小説

□青葉のみぞ知る
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そうこうしている合間にも、敵の艦隊が電に迫り、この冷たい海の底へと引きずり込もうとしている。
赤城の背筋に、ゾクッと悪寒が走った。
速力の遅い夕張では間に合わないし、既に大破してしまった金剛には、あの敵艦を沈める事は不可能。
戦艦の攻撃を小破で持ちこたえた五十鈴が頼みの綱であったが、彼女の射程距離外ではどうしようも無かった。

このまま、あの子を轟沈させてしまうの?
そんな事は出来ない...!

赤城は咄嗟に弓を構えた。
これでもか、と言う程に深く弦を引っ張る彼女の手は、小さく震えている。

「お願いっ...!」

ヒュウと風を切る音が消えて、具現化した天山が空を飛行する。
それは、電の元へと急ぐ夕張の頭上を過ぎ去り、連射砲を構えた五十鈴の近くへと差し掛かろうとしていた。
プロペラ機の音を耳にした五十鈴が、赤城の居る後方へと振り向く。
何時も強気で鋭いアクアブルーの瞳は、今にも溢れんばかりの涙が浮かんでいた。

此処に居る皆が、艦娘の末路を知っている。
もしも間に合わなければ、電は暗くて冷たい水底へと沈んで、何時か敵艦となった彼女と対峙しなければならない。
今まで対峙した敵艦達も、元は誰かだった。

嗚呼、もう間に合わない。

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