よろず小説

□鉄パイプの怪
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…鉄パイプの怪…



「…弾切れかよ」

J'sBARの酒倉庫。
扉を破って侵入してきたゾンビ達から逃れるように、
ケビン・ジョージ・アリッサの三人は、店員であるシンディの指示によって、難とか此処までたどり着いた。
上がった息を整えるように、深呼吸。
まだ彼等の誰もが、突然起きた非日常的な世界に、頭の中が混乱している。
この、心臓の動悸が止まらないのも、そのせいか。


「畜生…」

つかの間の、休息。
そうなる筈だった。

仲間の特攻隊長を務めていたケビンは、手持ちの45オートを整備しながら、苦虫を噛み潰したように表情を歪ませる。
そして短く、チッと舌打ちをした。
ランプを囲んで座っていた、ジョージとアリッサの表情が曇る。
ケビンの舌打ちが、一体何を物語っているのか、二人は分かっていたのだ。

彼等は、とある「アクシデント」見舞われた。

それは、「弾切れ」である。


ケビン、マーク。
この二人は、持ち前の銃を使って、襲い掛かってくるゾンビ達を倒す「殲滅係」をかって出た。
デビットに至っては、弾薬の温存なのか…折りたたみナイフ一本でゾンビを倒すという、ある意味人間離れした芸当を見せていた。

突破口チームの彼等は。
途切れなく押し寄せてくる敵を倒す事に専念していた。

仲間を守るために。
この場から逃れるために。


その弾数に。
限りがあるのも忘れて。




大人数で行動すのは危険だと、バー店内で別れたのが運のツキだったかもしれない。
特に、ケビンの45オートの弾は、マークの9mmパラベラム弾を使用するハンドガンとは違い、そう簡単に手に入りはしないだろう。

結果。
ケビン・ジョージ・アリッサチームは、境地に至ってしまったのだ。


「でも、敵はまだ大量に…」

「押し寄せてくる」

「のよね…」

扉の向こうから、あの屍達の声が聞こえてくる。
もう、笑う事しか出来ない状況である。


「このままじゃ俺達終わりだ…」

先程まで、滅多に見せなかったケビンの弱音。
仕方が無かった。
弾薬が無くなった以上、握り締めている45オートは、もはや無用の長物なのだから。

それに相手が人間じゃないのは、バー店内の死闘で何となく分かっている。
銃の持ち手部分で殴ったところで、奴等は気絶するどころか、馬鹿みたいに此方が襲われるだけだろう。

だからといって。
この扉を開いた後、敵の間をかいくぐるような真似が、果たして出来るだろうか。
それは、かなりの難易度を要する。
一人襲われれば、それを救出しにいって、逆に怪我人が増えるかもしれないのだ。


「…もう!
貴方が景気よく撃つからこんな事になるのよっ!」

「…!
あんだと!?」

仕舞いには、お互いの罪を擦り付ける始末だ。


「二人とも、やめないか!
喧嘩してどうする!」

唯一、冷静を保っていたジョージが、騒ぎ出した二人の仲に割り込む。
二人は睨み合ったまま動かなかったが、ジョージの叱責に頭を冷やしたのか、アリッサが目を伏せると、ケビンも彼女から目線を逸らした。
喧嘩の仲裁に入ったジョージだったが、彼に良い案は浮かんでいる訳ではない。
アルコールの入った(酒の入った)ボトルを投げつけるという事も考えた。
しかし数が足らない上かさばるし、接近戦では全く使えない。
店内で包丁を拾ったが、リーチが短すぎて危険だ。

デッキブラシは…。
駄目だ。
敵を仰け反らせるのが精一杯な上に、使い辛い事この上ない。


「リーチがあって、接近戦でも使える物はないのだろうか…?」




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