小説:ボーボボ

□短篇小説置き場3
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…たとえ君がいなくても…


あの青かった空。
若草色の野原。
見なくなって、随分と久しい。

否、見られなくなってと言う方が良いのかも知れないだろうか。

新しく与えられた世界には、それらを感じられる場所は皆無であった。
全てが人工的で、閉鎖的で。
手を伸ばした所で、もう、それらの世界を掴む事は出来ないだろう。
決して。


あの別れから、12年の年月が経っただろうか。
時は人を変えると言う。身体的にも、精神的にも。
否、変わらぬ人等居ないであろう。
どの様にでも人は変われるのだ。

それが成長であれ、退化であれ。

この書獄処刑場に幽閉された詩人は、日々、屍の山を築き上げてきた。
一人を殺せば罪人と罵られるが、沢山の人を殺せば英雄として崇められる…そんな世界の中に、彼は身を投じている。
否、彼を[罪人]等と罵る輩は、この閉鎖的な世界には一人として居ない。
詩人は裁きを与える「処刑人」という立場であり、そして賭博をするモノ達の中では、絶対に負ける事の無い「英雄」であったからだ。


だが…。
時折、詩人の脳裏に、12年前の思い出が過る時がある。

純粋だったあの頃。
純粋だからこそ、当たり前の様に感じていた日々。
それが幸せなのだと気付いたのは、手が届かなくなってからだった。

青かった空は深緑色に変わり。
白いカッターシャツは、真っ赤なドレスへと変わった。


駄目だ。
もう、戻れない。

僕は、もう。
君の傍に居る事さえ叶わないんだ。


光の当たらない花は、ただ、枯れていくのを待つのみ。
それが逃れられない運命なのだと言うのならば。
倫理の道を踏み外したモノに待つのは、一つ。
何時か自身が誰かの手によって裁かれると言う事なのだ。


その時。
「英雄」は。

「罪人」へと。
堕ちる。


その時が来る迄。
僕は「英雄」でありつづけよう。

たとえ君が居なくても。
僕は、やっていけるだろう。

この、孤独な世界の「英雄」ならば。




end,

2009.8.21 白井氏ゆきの
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