よろず小説

□マテパ小説
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いつも見るのは。
彼の後ろ姿。

僕の一歩前を歩く君を見ながら。
僕は、ぼんやりと考え事をしていた。

空いている右手が。

ユラリ
ユラリ

歩く毎に。
揺れている。

自分より日に焼けた、彼の手。
自分より男性らしい、彼の手。
揺れている手を見ながら。僕はソッ…と。
左手を彼へと伸ばそうとする。

ああ。
あの手に。
触れたいな。


「ティトォ!!早くいこうぜ!!」


ぼんやり。
そんな事を考えてたら。

彼が振り返って。
僕の名前を呼んだ。


「あ、うん」

伸ばした手を引っ込めて。
曖昧な、返事をする。

鼓動が、早い。
顔が、熱い。


「ん?どうかしたのか?」

不思議そうな表情を浮かべて、ミカゼは僕を見る。
その視線が恥ずかしくて、僕は顔を伏せた。


「何でも…ないよ」

引っ込めた左手を静かにギュッ…と握り締め。
僕は、彼の前を歩いた。

まだ僕は。
この、手を。

――伸ばせずに、いる。



end...

2007.4.12白井氏ゆきの
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