小説:ボーボボ

□短篇小説置き場3
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この世に生まれ落ちたその日から、少年の人生は既に決まっていた。

マルハーゲ帝国の一角へ城を構えるサイバー都市。

ある文献に「揺りかごから墓場まで」という言葉がある。
それは「生まれてから死ぬまでの間、可もなく不可もなく面倒を見る」という意味を表す言葉らしい。
どれだけ貧困だろうと、最低限の教養は受けられるし、病の治療も出来る。

しかし、彼にとっての「揺りかごから墓場まで」は、その様な意味では無かった。
生まれた時から死ぬまで、ひとつの道を歩む事しかを許されないのだ 。
それは己が時か、父の跡を継いで帝王になるという運命のみ。

子息が一人しか生まれなかった為に、少年への期待と重圧は凄まじい。
それは帝王のみならず、今後少年を担う重役や、挙げ句の果てには世話係でしかない侍女達までにも至る。
その気持ちに答えようと、日夜少年は勉学に励んだ。
帝王としての体裁や品格、そして立派な真拳使いとなる為に。

しかし彼は、とある形で彼等の期待を大きく裏切ってしまった。
周囲から寄せられていた期待は落胆へと変わり、彼への風当たりは次第に強くなる。
でも、あの重圧にしか感じなかった「期待の眼差し」を向けられなくなった───それだけでも幸せだった。
もう、周囲の目の色を伺いながら、ワザワザ良い子であろうと取り繕う必要は無い。

しかし、期待を裏切られた者達から向けられる憤慨や落胆の声は、日が経つにつれて次第に増えていく。
つい先日まで「期待」していた者達が、まるで手のひらを返したかの様に彼を嘲笑う。

どの時代でも、変わっていくのは何時も風景ばかりだ。
幾ら少年が努力をしても、素晴らしい成果をあげたとしても、周囲が彼の価値観を解る事が出来なければ、望む評価は得られない。

真拳それと同時に、人は[孤独]を背負う事になる。

[自由]と[孤独]は互いに相対しているから、どちらか片方だけを手にする事は不可能だ。
それは精神だけでは無くて、身体的にも及ぶ。
誰かの血を流させ、命を奪わなければ、この甘い劇薬は身体に浸透してはくれない。
孤独の代わりに手に入れた自由に溺れて、[代わり]だという事を忘れて。
それでも体は、自由を求めて人を殺める。

残るのは孤独だけなのに。


自由の代償に背負う物は、あまりにも重すぎる。

その孤独に折れない様。
ギガは自然と、詩人の体を無我夢中で求めた。


自由に溺れた孤独な者同士。

傷を舐めあう様に。




「あっ……ふぁ…」

詩人の口から漏れる甘い媚声。
繋がった部分からは淫らな水音が聞こえる。

血の付いた衣服を剥ぎ取れば、白い肌がほんのりと紅くなっていて、欲に溺れた自分を誘う。

舌で鎖骨から首を舐めあげると、華奢な詩人の体がビクリと跳ねた。


「ひぁ…!!やんっ……!!」

ギガの舌は耳へと到達し、敏感な部分を舐める。

わざとピチャリ…と音をたててやれば、ますます感じてしまう。

生理的な涙を流しながら、詩人はギガの首へ腕を回した。


甘い禁断の蜜を啜り続け、心は薬に犯された中毒者の如く、次第に深みへとハマっていく。

それでも尚、この身体は殺す事を止めない。


この甘い蜜を知ってしまったからであろうか?

努力なしに得られる自由に溺れたいがためか?




…いや、違う。


潰れてしまいそうな大きな孤独。

それから逃れるために抱く彼を、泣かせたくなかったから。


「ギガ様…」

もし、自分が詩人を抱くのを止めたとしたら。
この可愛い部下は、重い[孤独]からどう逃れればよいのだろうか。

潰れてしまいそうな[孤独]という名の傷を舐めあう相手である自分が居なくなってしまってはならない。
自分が居なくなってしまえば、詩人は。

[孤独]に押し潰されてしまうから。



END.→
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