小説:ボーボボ

□短篇小説置き場3
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ピシャリと左の頬を打たれた、少年の身体がよろける。
重力に従って、そのまま後ろのソファーへとダイブすれば、目前に迫る帝王と視線が絡んだ。
叩かれた際に切ったのだろうか、ほんの少し鉄の味が混じる口内にゾクリと震えた。

彼の紫色の瞳が自分の姿を映し出す。
向こうに居る詩人は、その紅蓮の瞳にうっすらと膜を張り、ただ彼を見つめていた。
怯えているのか、それとも困っているのか──そんな表情を浮かべている。

無論、詩人はギガが怖い訳では無い。
むしろ彼は、この帝王を愛している。
彼に忠誠を誓ったあの日から、ずっと。

それでもこの口は、彼に愛を伝える事はしない。
帝王に、不純な感情を抱くだなんて、そんな畏れ多い事を。

「お仕置きだな…」

鈍い光を湛えた瞳が、詩人を射ぬく。
三日月のような弧を描かせて、冷たく笑う彼。
服へとかけられた手が、今からされるであろう事を予感させる。

(ギガ様…僕は貴方をお慕いしております)

その言葉さえ伝えられないまま、今宵も宴が始まる。


end.
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