小説:ボーボボ
□短篇小説置き場3
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この世界は、とてつもなく非情で。
時に、この無防備なココロへ、とめどなく鉄の雨を降らせる。
穴の開いたココロは、そう簡単に塞がってはくれず。
そこからは、何もかも流れ出てしまうのだ。
弱者を慈しむ気持ちも。
悲しみ嘆き憂う事も。
そして、人を愛するココロさえも。
嗚呼。
自身の存在する世界は、とことん無慈悲である。
慈しまなければならないモノを手にかけ。
苦しみに喘いでも、その言葉は届かず。
愛したモノは、目の前から消えてしまう。
「〜なんだよね、全く嫌になっちゃうよ」
それでも、君は。
ライス君は。
僕に会う時、その笑顔を決して絶やさない。
何故…?
どうして、君は──
「何故君は、そんなに笑っていられるの…?」
ポロリと、口から自然と零れていった言葉。
脳内で考えていた筈なのに、ふと、口にしてしまった。
その事に気付いたのは、自身が話し終えた後。
その為、途中で言葉を濁す事も出来無かった。
直に伝わってしまった証拠と言わんばかりに、先程までコロコロと笑っていたライスは、きょとんとした瞳で詩人を見ているではないか。
「あっ…あの…その……」
何か言い訳を考えようとしたが、焦ってしまい言葉が出て来ない。
口を開けば、段々しどろもどろになっていく。
そんな自身に、嫌気がさした。
「ごっ…ごめんなさい!変な事尋ねて…」
何とも言えぬ気まずさを感じたらしく、逃れる様にライスから視線を逸らす。
紅蓮色の鮮やかな髪に隠れた詩人の頬は、恥ずかしさと申し訳なさで、ふんわりと桃色に染まっていた。
「…詩人君っ!」
「わっ!?」
ライスの声と共に、ふと、何かが頭の上に乗っかった感触。
温かいそれは、ライスの手。
くしゃくしゃと乱雑に、しかし優しく撫でられ、詩人は驚いて彼へと視線を向ける。
視界に映ったライスの瞳は、先程自身が発言した時とは違い。
あの、太陽の様な笑顔を取り戻していた。
「何も謝る必要無いでしょ?別に変な事なんかじゃないしさ」
「で…でも、折角ライス君がお話してくれていたのに、他事考えているだなんて失礼だよね…」
「まあ、それはそれ、これはこれでしょ?別にそんな事位で大事な友人を捨てたりしないよ」
頭を撫でていた手を離し、ライスは両手を自身の腰に置く。
彼が、ずいっと顔を近付けると、詩人は驚きと恥ずかしさでビクリと肩を動かした。
「─どうして」
「…っえ?」
「どうして僕が、何時も笑っているか、聞きたい?」
嗚呼。
僕達の存在する世界は、本当に無慈悲なのだ。
慈しまなければならない弱者を壊し。
苦しみに喘いでも、その言葉は決して誰にも届かず。
自らが愛したモノは、目の前から忽然と居なくなる。
こんな世界で。
何故。
どうして。
笑っていられるの─?
「どんなに今が苦しくても、どんなに今が辛くても
それでも僕は生きているから、こうして笑っていられるんだよ」
ニコリと優しく微笑みながら、そう話したライスに。
詩人の脳裏に、ふと考えがよぎる。
そうだ。
自身は、どれだけ後退的な考えの持ち主だったのだろうか。
生きていなければ、慈しむ事も、嘆き悲しむ事も、愛する事も決して出来ない。
そして、その逆もまた然り。
嗚呼。
笑う事だって、そうなのだ。
生きていなければ、絶対に出来ない。
死んでしまえば、もう笑う事すら叶わないのだ。
ならば。
生きている今のうちに──
「そうだね。どれだけ今が辛くても、どれだけ今が苦しくても…
それでも僕達は生きているから──」
僕達の存在する世界は、本当に無慈悲なのだ。
慈しまなければならない弱者を壊し。
苦しみに喘いでも、その言葉は決して誰にも届かず。
自らが愛したモノは、目の前から忽然と居なくなる。
それでも。
生きていなければ。
慈しむ事も
嘆き悲しむ事も
愛する事も
決して出来ない
そして、その逆もまた然り。
生きていなければ、絶対に出来ない。
死んでしまえば、もうそれすら叶わないのだ。
ならば。
生きている間に──
「そうだよ詩人君、それでも僕達は生きているから」
笑っていようよ。
例え、無慈悲な世界が変わらなくとも。
笑っていれば。
その間だけでも、幸せな気持ちになれるから──
End.
2010.1.23 白井氏ゆきの
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