小説:ボーボボ

□短篇小説置き場3
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総長殿


総長様


総長──



何故だろう。
彼等は、口を開けば必ずその言葉を投げてくる。
否、外の世界からやってくる彼等は、何時も同じ言葉しか言わなかった。



──総長



…嗚呼。
その事実に間違いは無いと、少年は苦笑する。

彼は、総長なのだ。
電脳6闘騎士であり、その総長に座する若き少年、詩人。

…だが。
彼は<その言葉>が、すごぶる嫌いであった。
それはそれは、嫌悪感さえ抱く程に。



──総長



そう、自身が総長と彼等に呼ばれる度に。
少年は、とある感情を感じて仕方が無い。


それは

絶大なる疎外感──


自分の名を、他の者から呼ばれる事の無い生活は、12年にも及び。
まるでそれは、少年にとって彼等が自分を見えない何らかの力で拒絶しているかの様だった。


何時だっただろうか。
[自分の名を呼ばれたい]という願望を、少年は持った。
…だが、幾月か経った時。
彼は、その願望を捨てたのだ。
手にした古ぼけた鍵を、先の見えぬ暗闇へ放り投げるかの様に。

否。
少年は一度たりとも、[自分の名を呼んで欲しい]と、彼等に自らにせがんだ事は無い。

──その時。
果たして、彼は気付いていただろうか。
心の何処かで、その願望を諦めていたという事を。

それは、ほんの些細な願望だ。
人で有るからには、己という人間を知って欲しいという。
本当に、本当に些細な。



一度も自分の名を呼ばれない生活───

何時しか流れていった、異様な12年の年月───



独りぼっちの世界で過ごした時間は。
余りにも永く、そして淋かったに違いない。

…その年月の間で、少年のココロに、とある感情が宿る。

絶望と、空虚。
そして原因の解らぬ苛立ち。

それらの感情が交じり合い、グラグラと情景を揺するのだ。


ふと、此処からは決して観る事の叶わない空を仰ぎ、少年は独り呟く。



─嗚呼

世界は僕を

拒絶した────




少年は、そう思ったのだ。
否、この様な異様な12年を過ごしてしまっては、ココロが歪められても仕方が無いだろう。

彼は、何時からか感じてしまった。
誰も、自分を詩人として見ていない。
1人の人格者として自分を見て等いないのだ。
彼等が見ているのは、1人の人格者である詩人では無く…電脳6闘騎士の総長である事を。


薄暗い書獄処刑場の中。
少年は、悲痛な笑みを湛え、仰いだ天へと手を伸ばす。
紅蓮の瞳に映るのは、深緑に塗りつぶされた、遠い遠い先の見えぬ闇の空間。



─求めるのが、こんなに苦しいのなら─



ならば、いっその事…と少年は思う。



─もう、僕は何も要らない─



自分の求めた世界に拒絶されたのならば。



─僕も

その世界を拒絶しよう─



それが。
理性を保った間に、流した。
詩人の頬を伝う絶望の涙だった───



end.

2010.2.20 白井氏ゆきの


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