小説:ボーボボ

□短篇小説置き場3
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ヒトの温もり。

それが、こんなにも甘美なモノだとは。

触れるまで、思いもしなかった──





─分かち合う幸福─



「やぁ詩人君、会いに来たよ!」

サイバー都市の一角にある書獄処刑場に設けられた一室。
カーテンが揺れる窓辺に置かれた、白い机と一対の椅子。
その内の一つに腰掛け、書に目を落としていた詩人は、久しく聞いた明るい友人の声に、視線を扉へと向ける。

其処には、厳重な装備に身を包む彼の部下に連れられて来られた…この都市には似合わないブラウン色の髪をした友人が。
にこやかな笑みを浮かべて、扉を背にして立っていた。
それに釣られるかの様に、詩人も微笑む。


「お久し振りだねライス君、此処へ来るのは」

何日ぶりかな?と笑い掛け、此方へ来る様にと促す。
詩人がアイコンタクトで命令すると、部下は「失礼します」との言葉を残して部屋から退いた。
残されたライスは、えへへと笑いながら、窓際に居る彼の元へと歩み寄る。
読み進めていた書に栞(しおり)を挟むと、静かに閉じて机へと置いた。


「まぁ、かれこれ3週間ぶりじゃないかな?」

「前回に会った時から、もうそんなにも経っていたんだね…
此処に居ると、月日が経つのも忘れてしまうから…どうにも鈍くて」

「僕も同じ。仕事をしているとあっという間だもん」

そう言いながら、ライスは此方へと向いた詩人の顎へ手を添え、彼の唇へ自身のそれを合わせる。
突然の事に、詩人は最初驚いた様に目を見開いたが、少しして紅蓮色の瞳を閉じた。


「んっ……」

ライスが、そっと唇の割れ目を舌でなぞると、遠慮がちに口を開ける詩人。
それに気を良くしたのか、彼は温かい口内へと舌を侵入させる。
久し振りの感触に、机へと置かれていた詩人の手が震えた。


「はっ……んんっ…」

歯列に這わした後、彼のやわらかい舌を捉え、絡める。
どちらともなく出る、鼻に掛かった甘い息遣いが、ライスと詩人の鼓動を速めた。



──温かい


「ふぁっ…」

ライスが口を放すと、名残り惜しそうに二人の間を銀の糸が繋いだ。
まだこの行為に慣れていないのか、息が少々あがってしまっている詩人。
桜色に染まった頬と、うっすらと膜を張った瞳が、妙に色っぽい。


「いきなりこんな…」

「まだ慣れない?」

もう何回かしたのに…と口にしたライスに、詩人は桜色の頬を一層赤らめる。


「会える日は少ないし、一緒に居られる時間だってあまり無いから、つい…ね?」

いたずらっぽく言うライス。
まだ引かない熱と鼓動の速さに悩されつつも、詩人は目の前の彼へと視線を合わせた。


「その事実に否定はしないけれど…だからと言っていきなりがっつかれても…」

「えっ、駄目?」

しゅん…と、さぞ残念そうにするライスは、まるで耳を下げた子犬を思わせる。
嗚呼、しっぽまで見えそうだ。

その瞳に、詩人は弱い。
惚れた弱みというモノだろうか…?
全く、目の前の恋人には困ったモノだ。


「ううん…ライス君なら全然嫌じゃないけれど…」

「そんな詩人君が好きっ!」

「わわっ!?」

詩人の言葉に、先程迄の残念そうな顔は何処へやら。
ぱぁっと表情を明るくさせ、嬉しさの余りに彼へと抱きつくライス。
彼の匂いがまた近くなって、落ち着こうとしていた詩人の鼓動は、また速まる。


「そんな可愛い事言うと、襲っちゃいますよ?」

「もう襲っているじゃないの…」

「今からの事です」

手加減しませんよ?
耳元で呟かれ、ふるりと疼いた身体。
これから始まるであろう甘い時間に、詩人はライスの背中へと手を回して抱き締めた。



end.


2010.2.27 白井氏ゆきの
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