小説:ボーボボ

□短篇小説置き場3
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嗚呼、彼は何度。

その言葉を口にしただろうか──



枯れた喉を震わせ、少年は頑丈な鉄の扉を叩き続ける。
その小さな手には、色白い肌には似合わぬ赤紫の痣が、強く表れていた。

余程、永い間。
この、冷たい扉を叩き続けたのだろう。


──嗚呼。

其処までする<何か>。
彼を駆り立てる<強い思い>が、あるのだろうか。
そうでも無ければ、出来た痣の痛みに耐え兼ねて。
途中で、その行動を止めてしまうだろう。


薄暗い書獄処刑場に響くのは。
頑丈な鉄の扉を不規則に叩く音と。

枯れた喉から振り絞られた。
弱々しくも強い少年の声。




─ごめんなさい

ここから出して──




それは、壊れたカセットテープの様に。
何度も、何度もリピートをする。

何に対して、少年は謝っているのだろうか。
それは、言っている彼にも解らなかった。


唯一、解る事。


どれだけこの扉を叩いても。
どれだけ謝っても。

その音は。
その声は。

誰にも届かないという事だけだ──



昨日も。
今日も。
そして明日も。


固く閉ざされた書獄処刑場の中からは。

不規則に叩かれる扉の鈍い音と。


齢(よわい)5歳の少年が。
誰に宛てたのか解らぬ懺悔の言葉と。

冷たい土の下からの解放を願う、泣き声が。
聞こえてくるのだ───



2010.4.12 白井氏ゆきの



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