小説:ボーボボ

□短篇小説置き場3
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籠の中の紅い鳥──

色々な人に愛しまれ
育てられた紅い鳥は

閉ざされた籠の中で、儚く淡い[夢]を見る───




─書極処刑場。
一差しの光も届かない、土の下に作られた[地下牢]の中。
そこには、巨大な本の上に身を横たえ、鮮やかな紅蓮色をした瞳で、暗い天井を仰ぐ一人の少年の姿。

彼は先程迄、誰にも邪魔をされる事無く。
穏やかな吐息をたてて、夢の世界に旅立っていた。


【何故だろう?】

…と、以前の記憶を失った少年は呟く。


夢の中での彼は

【輝く太陽に青い空】に抱かれ

【暖かい風に撫でられて揺
れる、色とりどりの花が咲き乱れる草原】が広がり

【甘いお菓子に、香り高い紅茶】が並び

【自分と親しげに話す沢山の人々】が居る


記憶を失った彼にとって。
それは[生まれてこの方見た事の無い光景]であった。

嗚呼。
[夢の世界]は。
何時だって甘美である。

目が覚めて。
それらが、[只の夢]である事に気付き。
毎度、少年は酷く落胆した。


彼は、ふと。
夢の中で毎度出てくる[とある人物]を思い出す。

それは、紫髪をした1人の青年。
彼は少年の父上の上司であり、このサイバー都市に君臨する帝王であった。

その様な。
少年には絶対に近付けない様な存在である帝王が。
少年の頭を優しく撫でながら。
毎度、口にするのだ。




─何時か、必ず迎えに行く─



その言葉の意味が、少年には解らない。


何時?

何処へ?

どうして?


──でも。
その夢の中で。
少年は、とても嬉しそうに振る舞うのだ。

まるで。
帝王の言う言葉の意味が解っているかの様に──



夢から覚めて、少年はその言葉を思い出す。
絶対に、自身は近付けない様な存在である帝王。

でも。
頭を撫でられた温かい感触と。
実際に言われたかの様な、その声が忘れられない。


もしかしたら───


彼が、此処へ迎えに来てくれるのかもしれない。

遠い昔に、そう約束してくれたのかもしれない。


その様な甘い夢を見て、少年は待ち続ける。

冷たい鳥かごの中。
何時までも"彼"に開けられる事の無い。

扉を眺めて────



End. 2010.8.21
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