小説:ボーボボ

□短篇小説置き場3
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暗い書獄処刑場の中。
深緑色に塗り潰された天井をぼんやりと見上げ、紅蓮色の瞳を揺らせながら。
ひとりの少年が、何かをぶつぶつと口ずさんでいる。

それは、とある古い歌。
記憶を失った彼が知っている、唯一の歌だった。



10人のインディアンの子供
ご飯を食べに行って
ひとりがのどを詰まらせて
9人になった



9人のインディアンの子供
夜ふかしで
ひとりが寝坊して
8人になった



8人のインディアンの子供
デヴァンを旅して
ひとりが残るといったので
7人になった



7人のインディアンの子供
まき割りで
ひとりが自分をまっぷたつにして
6人になった



6人のインディアンの子供
はちの巣で遊んで
ひとりがマルハナバチに刺されて
5人になった



5人のインディアンの子供
法律の勉強をして
ひとりが訴訟に巻き込まれ
4人になった



4人のインディアンの子供
海に行って
ひとりがあかいにしんに呑まれて
3人になった



3人のインディアンの子供
動物園に行って
ひとりが大熊に抱きつかれて
2人になった



2人のインディアンの子供
ひなたぼっこをして
ひとりが焦げ付いてしまって
1人になった



ギィィイイ…

続きを呟こうとした時。
ふと、外界を隔てる扉の開く音が聞こえて、少年は口ずさむのを止めた。

視線の先には。
扉を押し広げている人の影が、一つ。

少年は口元に弧を描き。
その影へと高らかに発言する。



「ずっと君を待っていたよ」


ふと白昼夢の様に思い出すのは、先程詩人が呟いていた古い歌。

果たして目の前の影は、どの様な道を辿るだろう。


(1人のインディアンの子供)
(独りぼっちで暮らしていたが)
(みんな私が殺したので)
(そして誰も居なくなった)


自分に殺されてしまい。
またこの世界からは、誰一人として居なくなってしまうのだろうか?

それとも。


(1人のインディアンの子供)
(独りぼっちで暮らしていたが)
(〇〇したので)
(そして誰も居なくなった)


この世界で、独りぼっちで暮らしていた自分を。
新たな場所へ連れ出してくれるのだろうか?



どちらかは解らない。

でも、詩人は。
誰にも見せない心の奥底で。

この独りぼっちの退屈な世界から。
連れ出してくれる存在が訪れる事を。

ずっと
ずっと願っているのだ───




2010.10.2


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