小説:ボーボボ

□短篇小説置き場3
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あの時の衝動と言葉を今すぐ消しされたのなら、どれだけ楽だったのだろうか?
己にとっても。
そして、あの少年にも。

届く筈も無いのに。
遥か地下から、詩人の笑い声が聞こえてくる様な気がして。
ギガは無言で、目を細める。
その紅の瞳は、ティーカップに注がれた紅茶の水面を映していた。

もしも、己が傍に居られたのなら。
そんな、小さな勇気さえ持てたのなら。
どれだけ良かっただろう?
己にとって。
そして、あの少年にとっても。

きっと今宵も、闇に溶けてゆくのだろうか。
ギガが抱くこの気持ちは。
地下で狂ったように響く、詩人の笑い声も。

形は違えど。
共に何かを求めて渇望し、その辛さに喘いでいるというのに。

なのに。
このココロと体は裏腹で。
その様な気持ちを明日へ描いては。
ぼんやりと、輪郭が明白では無い虚無感だけが残る。

きっと、己は逃げているだけなのだ。
誰からなのか?
そう、他でもなく詩人からであろう。
己の固執した"帝王"の道から踏み外しそうになった自分に恐れ、無闇に少年から未来と光を奪った。
それを咎める者は、独裁的な帝王である彼には居やしない。

…否、身近な所にその存在は居たのだ。
それは、首謀者であるギガ自身である事を。

己が、詩人へ代償として与えられたのは。
12年間の孤独と。
毎日己が用意した、[囚人]という新しい玩具だけ。

現実を目の当りにする事が辛くて、逃げ続けた。
だが、何時かは赴かなければなるまい。
このままではいけないのだ。
詩人にとっても─そしてギガにとっても。


傍に居たい。
それが例え、愚かだとしても。
未来と光を奪った首謀者である己にとって、許されざる事だと知っていても。


嗚呼、そうだったか。

気が触れたのは、詩人では無くて。

実は己であった事に、ギガは気付いた──



end.


2010.10.3
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